理研、質量のないディラク電子の空間分布を測定

2014年9月16日 22:33

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通常の電子とトポロジカル絶縁体表面のディラック電子の違いを示す図。通常の質量を持つ電子の場合、その運動方向とスピンの間に相関は無いが、トポロジカル絶縁体表面のディラック電子の場合、スピンの向きは常に運動方向と垂直で表面と平行である。これにより、電子の運動を制御することで磁気的性質の制御が可能になる(理化学研究所の発表資料より)

通常の電子とトポロジカル絶縁体表面のディラック電子の違いを示す図。通常の質量を持つ電子の場合、その運動方向とスピンの間に相関は無いが、トポロジカル絶縁体表面のディラック電子の場合、スピンの向きは常に運動方向と垂直で表面と平行である。これにより、電子の運動を制御することで磁気的性質の制御が可能になる(理化学研究所の発表資料より)[写真拡大]

  • 今回の研究では、ディラック電子の空間分布が、ポテンシャルの底からわき出してエネルギーの上昇ととも同心円状のリングになって広がるように変化する様子を実験で観測した。また、この振る舞いを理論解析で再現することに成功した(理化学研究所の発表資料より)
  • 電子分布に現れるリングを形成する帯をポテンシャルの等高線と垂直な方向に横に切ると、通常の電子では電子密度が高い部分が多数のピークを(このエネルギーでは3つ)持つのに対し、ディラック電子ではどんな場合でもピークの数は高々2つであることが、実験と理論計算の両面から分かった(理化学研究所の発表資料より)

 理化学研究所の付英双(フ・インシュアン)国際特別研究員らによる研究グループは、トポロジカル絶縁体の表面に形成されるディラク電子の空間分布測定に成功した。

 物質内部は絶縁体で表面は金属状態である物質をトポロジカル絶縁体と呼ぶ。その表面には質量を持たない電子「ディラク電子」が存在し、スピントロニクス材料として研究が進められている。

 今回の研究では、11T(テスラ)の強磁場と1.5K(ケルビン)という極低温によって電子をナノスケールの空間に閉じ込め、走査型トンネル顕微鏡法/分光法(STM/STS)を用いてその空間分布を測定した。その結果、ポテンシャルと磁場の効果を取り入れたディラック方程式から求めた理論的な電子分布とよく一致する結果が得られた。

 今後は、さらなる研究を進めることで、将来のエレクトロニクスに応用できる量子効果が発見できると期待されている。

 なお、この内容は9月15日に「Nature Physics」オンライン版に掲載された。

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