色と匂いの記憶は脳の同じ部分で処理される 東北大が解明

2014年9月2日 11:45

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記事提供元:エコノミックニュース

 東北大学大学院生命科学研究科の谷本拓教授 (脳機能解析構築学講座) らの研究グループは、色の記憶はショウジョウバエの脳内で、匂いの記憶と同様の細胞ネットワークによって処理されることを発見したと発表した。この研究成果は2014年8月19日に「eLIFE」誌に掲載された。

 ヒトは印象に残るデザートの味、香りは長く覚えている。また寿司で食あたりした場合、その後「体が覚えていて」寿司が食べられなくなるだけでなく、関連する刺し身や生魚の匂いのする食べ物全般が食べられなくなることもある。つまり人間の脳はポジティブな経験(報酬)やネガティブな経験(罰)をその時の感覚情報と結びつけて記憶するのだ。

 しかし、この「連合記憶」は一般的に、様々な感覚情報を結びつけるが、例えば「匂い」や「色」のような異なる感覚器官から生じた情報はどのように報酬や罰によって処理されているのだろうか。感覚ごとに別々の「記憶神経回路」が脳内にあるのか。それとも同じ回路に集約されているのか。この異なる感覚情報に関する連合記憶の脳内での処理方法、神経回路の仕組みを解明することを目的として、東北大学大学院生命科学研究科の谷本拓教授 (脳機能解析構築学講座) らの研究グループはショウジョウバエを用いて研究を行っている。

 ショウジョウバエの脳は 0.5mmにも満たない小さなものだが、脳内の回路の一部である特定の神経細胞を活性化、または抑制することができることが大きな利点だという。生きたままのハエの神経を操作し、生じる影響を行動学的に観察することで、操作した細胞にどのような機能が備わっているのかがわかる。嗅覚刺激(匂い)の連合記憶を解析するための実験手法として、砂糖(報酬)と電気ショック(罰)を与える手法が確立されている。特定の匂いを好きにしたり嫌いにしたりできる。

 谷本拓教授らの研究グループでは、匂いの記憶と色の記憶を比較するために、嗅覚記憶と同じ報酬と罰を使って新しい視覚記憶を解析する行動実験を確立し、特定の神経細胞の操作が嗅覚記憶と視覚記憶に影響するかどうかを比較することを可能にした。これによって、砂糖(報酬)や電気ショック(罰)を伝達する神経細胞を阻害すると、嗅覚記憶と視覚記憶の両方ができなくなることを発見した。さらに報酬や罰の情報が伝達される「キノコ体」と呼ばれる脳構造も、嗅覚記憶同様、視覚記憶にも必要であることを解明した。これらの結果から、色と匂いの連合記憶は同じ回路を使っていることが新たにわかった。

 今回の研究において異なる感覚情報の連合記憶は脳の特定の神経回路で一括処理されていることが明らかとなった。この結果は脳の働きの効率化という興味深いメカニズムを示唆しているという。(編集担当:慶尾六郎)

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