政治家に訊く:山崎拓自民党元副総裁(5)「尖閣を奪還せよ、中国が目論む東シナ海への軍事進出」

2014年8月7日 11:13

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【8月7日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
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隣国・中国との関係は未だかつてないほど、「最悪な状況」に陥っている。第二次安倍政権がスタートしてから2年近くが経とうとしているが、未だ首脳会談すら開かれていないありさまだ。そこで、SFNは、外交・安保問題の専門家でもある山崎拓元自民党副総裁に、5回にわたりインタビューを行った。今回は、最終回である。
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●日中首脳会談開催に3つの条件

 横田 8月5日付けの毎日新聞の朝刊に、先月末、福田康夫元首相が中国の習近平国家主席と北京で会談し、11月に北京で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の際、安倍晋三首相との「首脳会談」を要請していたことが報じられました。

  開催にあたって、中国側は幾つか条件を提示したが、日本側は無条件での開催を要求しているとも伝えられています。
 
 山崎 私も6月、7月と2度にわたって訪中してきました。中日友好協会会長唐家璇元国務委員とも再度会談して、話を聞いてきました。

  中国側の本音としては、開催にあたって「3つの条件」をクリアして欲しいといったところです。
 
 1、 歴史認識については村山談話を踏襲すること及び今後靖国神社不参拝を明言すること

 2、 沖縄・尖閣諸島の領土問題で「領土問題は存在しない」とする日本の立場を見直し中国側の主張する棚上げ論に与すること

 3、 集団的自衛権行使容認が中国包囲網の形成を目指すものでないことを明確にすること

 
  とはいえ、3番目は、我が国の政治問題なので、内政に干渉することになってしまう。強い懸念を抱いてはいることは確かですが、現実的な交渉の条件には出してきていません。
 
  よって、残りの2つについて外交交渉関係者の間で事前調整をしている段階なのですが、現在のところ安倍首相は「尖閣問題は譲歩の余地がない」と言っている。交渉は難航するでしょう。
 
 横田 なるほど。前回は日中間で懸案となっている沖縄・尖閣諸島の領土問題について歴史的経緯や施政権と領有権の違いなども含め、詳しくお聞きました。

  それにしても、なぜここまで中国は沖縄・尖閣諸島にこだわるのでしょうか。尖閣諸島のまわりに、海底資源はあまりないという調査結果が出ているのなら、余計に疑問を感じます。
 
 山崎 今、中国がこだわっているのは、東シナ海における海洋進出、軍事進出における通過点としてのポジションです。
 
  中国の軍事戦略上の概念で、海上兵力展開の目標ラインとして、まず第一列島線があります。いわゆる中国から見た、第一次対米防衛線です。ここには、沖縄から台湾、フィリピン、ボルネオ島が含まれる。

 第一列島線とは1982年に、鄧小平元最高指導者の意向で、中国人民解放軍近代化計画の一端として打ち出されました。当時は、旧ソビエト連邦への備えとしての概念でしたが、冷戦崩壊で中国の潜在的仮想敵国がロシアから米国に変更したことが背景にあります。
 
  つまり、対米国防計画でありましたが、ここで思い出して欲しいのが、私が第2回インタビュー「習近平政権が抱く、中華民族の偉大な復興という野望」(http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20140709_10)の中で述べたことです。
 
 習国家主席は、「アヘン戦争(1840〜42年)以来、列強に干渉・侵略された屈辱の歴史を取り返す」ことを目指していると述べました。中国は2010年までは第一列島線に防衛線を引き、南・東シナ海と日本海にアメリカ海軍・空軍の侵入を阻止することを目標としていた。
 

●習主席が目論む第二列島線への進出

 そして今、第二列島線まで行こうとしているのです。
 
 第二列島線とは、伊豆諸島を起点に小笠原諸島、グアム、サイパン、パブアニューギニアに至るラインです。
 
 その先に、マーシャルやハワイといった太平洋の島々があります。中国は2020年までに第二列島線まで進出できる海軍力を完成させ、遅くとも2050年までには、西大西洋、インド洋で米海軍に対抗できる海軍を建設するとしています。
 
 さらに、「太平洋を米中で共同支配(管理)しよう」と持ちかけているのです。我々も到底承服できませんが、許し難いのは米国でしょう。
 
 太平洋は米国が支配していると思い込んでいたのに、2013年6月に習国家主席が米国に乗り込んで、カリフォルニア州のパーム スプリングズで、バラク・オバマ大統領と米中首脳会談を行った際「太平洋を米中共同の海にしよう」と、言ったわけです。
 
 オバマ大統領が黙って聞いていたらしいので、それでオバマ弱腰説が広まってしまった。だから、オバマ大統領は今、必死で巻き返しをはかっている。リバランス政策というのがそれです。
 
 横田 いかに中国の行動が「蛮行」だとしても、日中で話し合える環境にしておかないと危険な状態であることに違いはありませんね。
 
 山崎 そうです。東シナ海上の海・空における日中間の危機回避メカニズムの設定が重要です。安倍総理には、よくよく熟慮した上で、日中首脳会談にどう臨むのか、結論を出して欲しいと思います。(聞き手・SFN編集長 横田由美子)【了】

 やまさき・たく/近未来政治研究会最高顧問 1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。 早稲田大学第一商学部卒業後サラリーマン生活などを経て 1967年に福岡県議会議員に当選。1972年の総選挙で衆議院議員初当選。以後、12回当選。防衛庁長官、自民党幹事長,自民党副総裁などの要職を歴任。柔道6段、囲碁5段。2012年、秋の叙勲で旭日大授賞を受章。HPにYAMASAKI TAKU OFFCIAL WEBSITE(http://www.taku.net)がある。

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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

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