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【コラム 山口亮】老後資産の形成に必要なコト:日本の確定拠出年金制度の問題点(上)
【8月5日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
●日本で確定拠出年金が広まらない
「日本版401k(確定拠出年金制度、以下401k)」については、既に語り尽くされた感もあるが、この自助努力で老後資産を形成できるはずの制度がなぜ広まらないのか、今一度考える必要がある。
米国の確定拠出年金を模倣しているが、適格年金を中心とした退職金の代替であり、いわば「退職金そのもの」であるが、年金制度としては機能していないことに、著者はひとつの原因がある気がする。
米国の401kは、従業員が自助努力で老後への資産形成を行なうことを、国民全体が効率的な資本市場を利用しながら、税制で支援するという趣旨で発展していったので、根本が違うのだ。
極めて社会主義的な社会保障政策をとってきている日本社会と比較して、米国では、オバマ政権以前には公的医療保険制度もなかった。社会保障(Social Security)も支給金額も、老後の支給は実質的にほぼ日本の半分以下である米国と日本は、本質的に異なる社会である。
つまり、米国では必然的に自助努力で老後の資産形成を行わなくてはという切迫した状況にあるので、税制の優遇や企業が上乗せでマッチング拠出という公的な支援により確定拠出年金(401k)やIRA(Individual Retirement Account)が拡大、普及してきた。
これら制度がなければ成り立たない社会の仕組みなのである。
さらに米国では、全員が自分で確定申告をする必要があり、税に対する意識が日本よりもはるかに敏感だ。今や米国のIRAの運用残高総額は、500兆円を超えている。
一方、日本では、確定拠出年金は退職金という発想でしかない。従業員は「もらえるのが当たり前」という意識を強くもっている。しかしながら、この恵まれた退職金制度は高度成長期の遺物であり、30代から下の世代が老後を迎える時には、過去のものとなっている可能性が高いのだ。
公的年金についても、水準を維持する財源の裏づけとなる改革には政治的抵抗が強く、現実的には社会保障の給付水準を切り下げていく方向とならざるを得ない。
我が国の確定拠出年金は公的年金を補完する制度としてより重要な役割を担わなければならないが、従来の退職金制度としての性格から、米国型の自助的積立制度に社会意識を変えていく必要がある。
社会保障が縮小し、アメリカ型に近づく日本にとって、米国が作り上げた年金資金を形成していく歴史や仕組みから学ぶことは多い。
勤労世代は、漠然と老後の備えに不安を抱えている。
2001年10月に「確定拠出年金法」の施行によりスタートした確定拠出年金制度(DC:Defined Contribution)は、年金資産を加入者が自己責任で運用の指図を行い、損益に応じて年金額が決定されるという仕組みである点においては米国型と同じだ。
平成26年4月の企業型確定拠出年金(以下、企業型)の加入者数は497万人、実施事業者数は1万8617社、個人型年金(以下、個人型)の加入者は18万5659名(資格喪失者を除く。平成26年4月現在、厚生労働省年金局のHP(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/sekou.html)より)の加入者がいる。
●普及を疎外する複数要因
少しずつ日本でも普及するようになったが、まだ本格的な普及期に入ったとは言い難い。NISA(日本版ISA:少額投資非課税制度)も老後資産形成の手段として活用することができるが、やはり本命は確定拠出年金制度(DC)である。
税制優遇拡大をはじめとした普及を後押しする規制緩和が求められる。
普及を阻害する要因として、個人型では主に2つの弊害が考えられる。
(1)加入要件に制限がある
加入資格に厳しい要件が定められている。個人型で掛金を拠出するには、60歳未満の「国民年金の第1号被保険者」もしくは「厚生年金の被保険者で、企業年金制度の加入対象者となっていないこと」が必要になる。
また、主婦、公務員、勤務先の企業に企業年金のあるサラリーマン(ほぼ全ての大企業)は加入できない。
現在の日本で、社会保障の給付水準を切り下げざるを得ないと仮定すると、より個人の自助努力を求める基本政策の大転換をしなければならないので、加入資格の撤廃が望ましい。
加入資格撤廃は、行政の効率化にも寄与する。個人型の加入資格を行う「国民年金基金連合会」は、加入時または移換時に2777円、加入者(掛金の拠出者)は毎月103円の手数料を徴収する。これは、主として加入者に対する事務費と説明されているが(参考1)、そもそも加入資格を撤廃すれば、国民年金基金自体の存在が必要なくなる(参考2)。
米国のIRA(Individual Retirement Accounts=個人退職勘定)は、1974年に制定されたERISA法と同時に導入され、当初は通常の雇用をベースとした退職プランでカバーされていない従業員に限り、控除額も年1500ドルという加入者制限があった。しかし、1981年のEconomic Recovery Tax Act(ERTA=経済再生税法)にともない、適用加入者について幅広く適用されるようになった。
70歳と半年以下の年齢の、通常の納税者であれば、50歳未満は年間5500ドル、それ以上は年間6500ドルまでの所得控除と拠出が可能となる。
つまり、加入者制限が事実上撤廃されれば、日本の個人型確定拠出年金は、日本版IRAになりうる。結果として、幅広い国民に使われる公的な年金インフラとすべき制度だろう。
(2)拠出限度額
米国の確定拠出年金では、2013年から14年の年度の年間拠出上限額を1万7500ドル(1ドル100円で換算すると175万円)として、所得から非課税で控除されて、拠出することができる。
一方で、日本の確定拠出年金は、現在、自営業者等(第1号被保険者)が所得控除をして個人型として掛金として拠出できるのが、月額6万8000円(年間81万6000円)(ただし国民年金基金への加入・付加保険料の納付があればそれと合算された金額が上限になる)が上限であり、米国の控除額の約2分の1である。
サラリーマン(第2号被保険者)は、勤務先に厚生年金基金、確定給付年金、確定拠出年金(企業型)がない場合に限り、月額2万3000円(年間27万6000円)が上限となる。また、第3号被保険者(国民年金の加入者のうち、厚生年金、共済組合に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者で、年収が130万円未満の人)は、無条件で加入できない。
以上のように日本の個人型は、加入要件の制限と共に、拠出限度額が低く制限されているため、自助努力の老後を支える制度として不十分だ。少なくとも全ての対象者に現在の倍以上の水準が求められる。
参考1::http://www.npfa.or.jp/401K/join/faq.html#faq50
参考2:国民年金基金連合会は厚生労働省の外郭団体、平成21年度予算で国庫から約12億円の補助金が支給されていた。2010年の「行政事業レビュー」(事業仕分け)で、内容を大幅に見直すべきとの判定がなされている。【続】
編集部注:【コラム 山口亮】老後資産の形成に必要なコト:日本の確定拠出年金制度の問題点(下)に続きます。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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