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自動車の安全装置の進化が奪うもの
日産自動車が開発した緊急操舵回避支援システムの画面(2012年時のもの)[写真拡大]
自動車の安全装置は日々進化している。今では、前方の障害物を察知して、自動でブレーキをかける衝突被害軽減ブレーキも一般化してきた。また、カメラやミリ波などを使ったセンサー機器を駆使し、周りの人や障害物はもちろん、車線・道路標識・ドライバーの状態などを認識して、警報を出すなどする装置も市販されている。さらに、日産自動車では緊急操舵回避支援システムを開発。いわゆる「ぶつからないクルマ」の誕生に道をつけた。
こういった動きはなにも自動車本体だけで進んでいるわけではない。国が推進するITS(高度道路交通システム)では、道路などに自動車の運行をサポートする様々な設備を設置して、究極的には自動運転も可能なインフラの整備を目論んでいる。これらは、利便性の追求と交通安全を両立させることができるため、理想的なシステムだと評価する声も多い。
ただ、我が国の自動車文化は「ステイタス」から始まったことによる影響も少なくない。すなわち、「成功の証」や「趣味」といった嗜好品としての位置づけが強いということだ。これは、自動車の「走りを楽しむ」とか、「自ら運転することの満足感」などという思考が、自動車の購買動機につながっているということに他ならない。
このような観点から自動車の安全装置を考えると、大きく三つのグループにわけることができる。一つ目は万一の際に乗員らの命を守る装置だ。シートベルトプリテンショナー(緊急時自動巻き取り装置)やエアバッグなどがこれに当たる。二つ目は走行安全補助装置で、ABS(アンチロックブレーキシステム)やESC(横滑り防止装置)などがそうだ。この二つは一般的なドライバーにとって便利かつ有効な装置であり、これらによって自らの運転を制限されているとは感じることがない。
しかし、三つ目の危険回避装置である衝突被害軽減ブレーキや緊急操舵回避支援システムや、ITSで進められているシステムは、ドライバーの能力と関係なく誰でも危険の回避が可能になる。すなわち、自動車を嗜好品として楽しむための要素を、大幅に減退させてしまうことになりかねないのだ。
自動車が誰でも簡単に同じレベルで扱えるようになると、そこに「ステイタス」が入り込む余地はなくなる。言い換えれば、目的地に安全に運んでくれるなら、機械が何であるかに興味を持つ人はいなくなるということだ。そうなれば、自動車マーケットは必需だけの小さなものになってしまいかねない。
交通安全は人類の悲願である。そういった意味で、安全装置の進化は歓迎すべきものといえる。一方、「自動車を楽しむ」ユーザーのニーズにも応えられるような製品やシステムの開発も大切だ。これらをバランスよく両立させることが、今後の自動車業界を占う上でのキーポイントになってくるだろう。(記事:松平智敬・記事一覧を見る)
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