政治家に訊く:山崎拓自民党元副総理(3)「集団的自衛権構想は中国封じ込めか」

2014年7月17日 06:23

印刷

記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【7月17日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
  ===
 隣国・中国との関係は未だかつてないほど、「最悪な状況」に陥っている。領有権問題に加え、安倍政権が閣議決定した「集団的自衛権行使容認」の問題がネックになっていることは間違いない。我が国の対中外交戦略が問われている。そこで、SFNは、外交・安保問題の専門家でもある山崎拓元自民党副総裁に、5回にわたりインタビューを行った。
 ===

●滋賀県知事選挙での敗退

 横田 滋賀県知事選挙では、当初は圧勝と見られていた自民党推薦の候補が敗れ、元民主党衆議院議員の三日月大造氏が当選しました。原発や経済政策に対する不満もさることながら、集団的自衛権の行使を容認した政府の閣議決定に対して多くの滋賀県民が「NO」を突きつけた形になりました。
 
 山崎 NHKの世論調査を見ても、安倍内閣を支持すると答えた人は先月より5ポイント下がって47%と第2次安倍内閣発足後、初めて50%を割りました。

 「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」という政府の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をしたことを評価するかどうかの質問に対しては、「大いに評価する」が10%、「ある程度評価する」が28%と、滋賀県民のみならず、国民に対して十分な説明がなされたかというと、疑問です。
 
  中国に対しても同様です。

  安倍政権が「集団的自衛権構想」を打ち上げて、密接な関係にある他国に対する武力行使が発生し、そのために我が国の存在が脅かされる場合に、当該国から要請があれば、自衛隊を出してその国の共同防衛にあたるという路線を明確にした。

  中国は安倍政権の意向が中国封じこめにあるのではないかと多大な不信感を抱いてしまいました。
 
  高村正彦副総裁が5月に訪中した時、「我が国の存在が脅かされるような事態でなければ、集団的自衛権は行使しないと」と、懸命に説明したと仄聞しました。

  しかし、中国側としては、「憲法解釈の変更を閣議決定でやる安倍総理のことだから、集団的自衛権行使の範囲がどんどん広がっていくだろう」と、観測しているようです。

●日本という「警察犬」

 横田 アメリカは、あえて現在の日本の行動を容認しているという見方もあります。そうした「後押し」があるせいかはわかりませんが、14日の衆院予算委員会では、集団的自衛権の行使に関し、閣議決定に盛り込んだ武力行使の3要件(※1)を満たせば、米艦防護など政府が与党に示した行使8事例への対応が全て可能になるとの見解を表明しました。
 
 山崎 アメリカとしては、「世界の警察官としての役割を担うこと」が財政的にも重荷になってきているし、国民の厭戦気分も横溢しているので、日本という「警察犬」を連れて歩ければ、非常に都合がいいと考え始めた節がある。そういう深い意図をよみきれないところに現政権の問題がある。今次の日米防衛協力のガイドラインの協議の結果、周辺事態法の改正が行われることになろうが、そういった方向が出てくる筈だ。

 これは、外務省にも責任があります。外務省の主流は、今も昔も日米関係を非常に重視するアメリカンスクールです。

 もちろん悪いことではありません。しかし、アメリカンスクールの役割や存在が増すにつれて、いわゆるチャイナスクールなど、その他のスクールの外交の力が相対的に落ちている。つまりアメリカの意向を外務官僚が過大に汲み取って伝えている可能性が否定できないのです。国連決議に基づく集団的安全保障への参加への道を何とか開こうとしたのもその反映だと思います。

 外交のツールとしてソフトパワーだけではなく、ハードパワー(軍事力)を使おうとしているのでしょう。
 
 横田 今、東・南シナ海では、領有権を巡る対立が起きていて、ベトナムやフィリピンとは軍事衝突に近い状態になっています。中国は米国に対して、「不介入」を要求しましたが、米国は、問題領域での航空機による監視活動の強化や海軍力の配備を含む新たな軍事戦略を展開しています。
 
 山崎 かつてのベトナム戦争時には南ベトナムから米軍支援の要請があり、米国は同盟国にも共同行動を要請した。韓国は米国との集団的自衛権を行使して約5万人の兵力を投入し、5千人の死者を出した。日本は当然のことながら「集団的自衛権の行使はできないから」と言って行かなかった。結局、米・韓連合軍は敗北した。

  そして、今度は、南北統一したベトナムと中国との間で南沙諸島をめぐって衝突が起こっている。南沙諸島というよりも、ベトナムの海域の資源をいきなり中国が掘り始めたから、ベトナムが怒った。実際、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)にあたる場所です。

  従来は自衛隊派遣について個別ケース毎に特別措置法(テロ特措法とイラク特措法等)を制定して対応してきました。15日の参議院予算委員会で安倍総理は、自衛隊の任務を拡大する安全保障の法整備に関し、国際協力ための自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法の制定を検討する考えを示しました。

  中国が今後、東シナ海や南シナ海への海洋進出をますます強めるでしょう。日中関係が思いがけない方向に行く危険性は十二分に孕んでいると言えるでしょう。(聞き手・SFN編集長 横田由美子)【了】
 
※1 武力行使の新3要件

(1)我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない時に、(3)必要最小限度の実力を行使すること。

 やまさき・たく/近未来政治研究会最高顧問 1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。 早稲田大学第一商学部卒業後サラリーマン生活などを経て 1967年に福岡県議会議員に当選。1972年の総選挙で衆議院議員初当選。以後、12回当選。防衛庁長官、建設大臣、自民党政調会長、自民党幹事長,自民党副総裁などの要職を歴任。柔道6段、囲碁5段。?2012年、秋の叙勲で旭日大授賞を受章。HPにYAMASAKI TAKU OFFCIAL WEBSITE(http://www.taku.net)がある。

■関連記事
政治家に訊く:山崎拓自民党元副総理(3)「集団的自衛権構想は中国封じ込めか」
シティグループ証券損害賠償請求事件で東京高裁も棄却
大阪で破産企業をめぐる訴訟が勃発

※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

関連記事