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ヒト体に本来備わるガンを予防するしくみとは 京大が発見
京都大学の高橋淑子 理学研究科教授、吉野剛史 同特定研究員らの研究グループは、奈良先端科学技術大学院大学、大阪大学の研究グループとの共同研究により、生体内で隣り合う上皮組織の間にコミュニケーション(上皮間相互作用)が存在することを発見したと発表した。
このコミュニケーションがうまく働かないと上皮組織が壊れやすくなり、ちょっとした刺激やストレスでがん転移が起こりやすくなるという。また、これら上皮間相互作用の実体として、フィブロネクチンが鍵を握ることが解明された。
体のさまざまな臓器の内部は、上皮組織でぎっしり詰まっている。上皮とは細胞が整然と配置されている組織のことを意味する。もしこの上皮が壊れてバラバラの細胞になると、ガン転移などにつながるのだ。上皮性の組織は体中に存在し、多くの場合それらはお互い密に接している。しかし生体内において、隣り合う上皮間に何らかの相互作用が存在するのか、また存在するとしてもその役割は何かについては、これまで全くわかっていなかった。
今回研究グループは、これらの問題解決に最も適しているニワトリ胚を用いて、一部の上皮を除去するなどオリジナルな解析法を考案することにより、上皮間相互作用の発見にこぎつけた。トリ胚の発生のしくみは、ヒトを含めた哺乳類と非常によく似ているため、今回の発見はヒトのガン治療につながる可能性が高いといえるとしている。
今回の研究では、「体腔上皮」と呼ばれる上皮と、そのすぐ下に作られる腎管(上皮)に注目した。体腔上皮とは、臓器を覆う薄い膜や腸間膜の元になる組織。まず、体腔上皮と腎管がお互いうまく関係を保ちながら作られることを見出した。次に、両者間にシグナルが働くのかを知るために人工的に腎管を除去したところ、体腔上皮の形状が異常になった。
特筆すべきは、腎管の有無によって、体腔上皮のガン化誘導作用に対する抵抗性が大きく異なっていたことだという。つまり腎管からのシグナルがあると体腔上皮は「頑丈」で、たとえガン化因子を作用させても変化はなかった。一方で腎管が除去された体腔上皮は抵抗性がなく、ガン化因子によって転移に似た現象が引き起こされた。このことは、生体内では隣り合う上皮がお互いに作用しながら、ガンなどの異変がおこるのを防ぐしくみがあるという可能性を示すものであり、世界で初めての発見だとしている。
さらに今回見出した上皮間相互作用の実体として、細胞外基質としてよく知られているフィブロネクチンが主要な蛋白質であることを証明した。今後のガン予防法や治療法に新たな道を開くと期待されるとしている。なお、この研究成果は、「米国科学アカデミー紀要」(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)のオンライン版に掲載される。(編集担当:慶尾六郎)
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