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最低保証年俸の設定で産業構造の転換とイノベーションを(1/5)
筆者は日頃は戦略の実行力を高めるための支援、そのための組織開発や、リーダーシップを実践的に開発するコンサルタントとして活動している。
そんな中で、日本ではどうにも個々の企業の努力だけでは超えられない壁があるのではないかと感じた。政策提言というには大げさだが、一つの面白いモデルを考えついたので、そのコンセプトを説明し、皆様からの反応を教えていただきたいと考え、本稿にまとめてみることにした。
一言で言うと、労働市場の流動化に必要な制度的な施策だ。それは18歳から65歳までの全勤労者に、ある考えに基づいた最低年俸を保証するというものだ。
■資本主義の枠組みを用いた社会主義国日本の活性化
1960年代の高度成長期に日本は、資本主義の枠組みを使いながら、固有文化を反映させた運用をした結果、出来上がったのは社会主義的な仕組を取り入れた経営思想だ。結果としてこれが平成元年バブル期から、今日に至る間の産業構造の転換を遅らせる理由になった。
典型的なものが、年功序列であり、長期雇用という日本的雇用慣行だ。企業内労働組合も併せて3種の神器と呼ばれる。一時期は成長を支え、結果的に日本の地位を築いた仕組である。しかし成長が成熟し、人口動態も変わり、グローバル競争の中で産業構造も変わった今、その役割は終えた。むしろ、雇用が職ではなく会社に紐づくような勤労価値観を産んで、変革を妨げている。
これからは就社でなく、就「職」。賃金は、正規社員か非正規かは除き、同一職務、同一賃金にすべきであるという論客は多い。私も同感だ。今大切なのは、新しい価値を世に生み出すイノベーションや、市場自体が伸びている業界で実際の成長を、どう効率的に発生させられる仕組を国として持つかだ。
元来日本人は、工夫好きであり、職人志向が強いと筆者は思っている。日本の成長の中で、工夫や創造は大きな役割を果たし、新幹線から自動車、ウォークマンまでは世界を席巻してきた。それには、失敗を考える余裕なく、坂の上の雲を目指し続けなければならない時代背景があった。
しかし、現在の大企業では、新しいこと、これまでと違うことを進めるための意思決定は構造的に後手に廻る。新しい取組そのものが既存の企業の価値観と逆のことをしなければならず、人事評価の仕組みもそれを推し進めるものではないからだ。クリステンセン教授の唱えるイノベーションのジレンマが産業構造の転換を必要とする日本株式会社全体で起っていると考えられる。
成長国では生活必需品市場は成熟した今、提供すべき価値は何なのか。私は、日本国内市場にも、海外に向けた市場創造についても、まだまだ日本企業が価値を生み出すことが可能だと思っている。しかしながらその価値を創りあげるための企業活動・経営を切り盛りできずに競争に負けているのが今日の日本だ。
国内だけでなくグローバルに独自性や価値を提供できるような仕組や企業運営の形を生むためのダイナミズムを生み出す。そのための1つのきっかけになればと思い、本稿を書いている。
具体論に入ろう。私が提案する最低年俸保証を具体的な数字にしてみた。これらの数字には検証が必要だ。しかし、物事を具体的にするためには、「仮にこうした状態が可能であったとしたらどうなるか。その状態を作るためには、何が必要か」という思考を導く必要がある。そのため、あえて数字を具体的に置いてみた。
尚、以下の中では前提として勤労者とは、正社員人数15人以上、3年以上の黒字を出している企業の「全て」を対象とした議論と考えていただきたい。その定義や理由も必要だ(私の仮説はある)が、こうした具体的な数字は、むしろ議論を具体化するための装置だと改めて思っていただきたい。
■2つの年齢層に向けた最低保証年俸案
グループ1:
18歳から45歳までの企業で働く人に、年齢×10×1.5の最低年俸を保証する。
保証の負担は、企業が50%、国が50%とする。この最低年俸以上の支払いは企業の自由意志で可能であり、その追加分は全て企業負担とする。
グループ2:
46歳から65歳までの全員に、年齢×10×1.5×50%の最低給与を保証する。
保証の負担は、全て企業負担とする。
グループ3:
本稿では直接のテーマとしては取り扱わないが、連続性を持たせるために66歳以上についても触れておきたい。一人一律240万円を最低限の年金、または年俸として国、または企業が状況に応じて負担する。それ以外の上乗せとしての厚生年金・企業年金または年俸は、可能であれば各企業負担で行う。定年というコンセプトそのものを無くす。
具体的な数字を当てはめてみよう。
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