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【参院選、間近】海外紙が指摘する安倍政権の課題
昨年12月の衆院選で地滑り的な勝利をおさめ、総理の座に返り咲いた安倍氏。デフレ解消による経済浮揚を目指す「アベノミクス」の断行を誓い、国益のためにTPPへの参加も表明した。
一方、「タカ派」で知られる同氏の台頭に、韓国・中国は警戒を強め、歴史問題や領土問題による摩擦が火花を散らしている。
こうした中、安倍首相の悲願である「ねじれ国会解消」のチャンスが、21日に巡ってくる。参議院選挙だ。前評判では、安倍首相率いる自民党の勝利はほぼ間違いないとされている。
日本国民は、本当に、日本が抱える諸問題の解決を安倍首相に一任するつもりなのか。参院選後の日本はどうなるのか。海外各紙が分析した。
【TPP参加 農家の「聖域」は本当に守られるのか?】
選挙応援で全国を駆け巡る安倍氏の、先週の訪問先は東北だったという。人口の少ない宮城、山形の町で、首相は声を涸らし、支持を訴えた。話題はTPP。「自民党は、TPPに参加はしても、食糧が国の要であることは熟知している。食は必ず守る。安心してほしい—-」それが、首相の演説内容だった。
しかし、ことはそう簡単ではないと専門家は指摘する。安倍首相は、コメ、麦、牛肉、乳製品、甘味資源作物の農業の重要五品目を関税撤廃の例外とする考えを主張する見込みだが、先行参加する11ヶ国から大きく出遅れている日本が、自国の主張を反映させる余地は少ないという。
15日にマレーシアのコタキナバルで始まった第18回交渉会合が、日本にとって、TPP参加表明以来、初めて参加する交渉の場となる。初参加の日本は、米議会の承認手続きが必要なため、23日からの合流となる。そのため、関税関連の交渉には参加できず、知的財産権などが俎上に上がる会議のみへの参加となる。
前述の安倍首相の選挙演説は、いかにも、「700%」の関税がかかる米を含め、現状維持を確約するかのようだが、もともと関税の関税撤廃と自由貿易を標榜するTPPにおいて、農業に「強い」米、豪などの各国が手つかずの聖域を守るとは考えにくいとされる。
「守る」とはいうが、「どうやって」には触れないその論調からすれば、しょせん、補助金頼りになりかねないとフィナンシャル・タイムズ紙は分析している。
【なぜ、怒らない? なぜ、声を上げない? 不思議の国、日本】
ブルームバーグは、日本通のコラムニスト、ウィリアム・ペセック氏の、「外国人が日本国内から見た日本」を掲載している。
同氏は言う。年金問題、高齢化社会、世界最大規模の借金、急上昇するエネルギー価格、アメリカとの基地問題—日本が抱える問題は山積みだ、と。そして、いぶかしむ。
「なのに、不安の声はなぜ上がらないのか。自民党の圧勝が既成事実視されるのはなぜなのか?」
さらに同氏は分析する。たとえ、日本の農産物がGDPの1%あまりに過ぎなくても、自民党が政権を牛耳っていた時代の選挙区割りがそのまま残る現状と、自民党の「支持基盤」としての存在意義からしたら、「農業従事者」の存在は決して軽視できないもののはずだと。そして、いぶかしむ。TPP参加表明によって、一種、「切り捨てられた」観のあるこの人々はなぜ、その力を行使しないのか。なぜ、怒らないのか?
そもそも、自民圧勝の雰囲気が漂ってはいるが、日本国民は決して、安倍氏を全面的に支持しているわけではない、と同氏は言う。安倍氏のナショナリズムに共感する日本人は少なく、韓国や中国との関係悪化を心配して、首相は靖国参拝を強行するかと眉をひそめている人は多い。
TPPについても、保守的な国民性から、自由競争を喜ぶよりも、中国からの汚染植物の流入やアメリカの巨大スーパーの林立、賃金の低下、情け容赦のない資本主義を危険視する人の方が多い。
福島第1原発では、高濃度の放射性物質の汚染水が太平洋に流出。原子力発電への不安の声は絶えないのに、再稼働を目論む自民党に政治を任せてしまうのか?
アベノミクスで、法人税率は引き下げが検討されている。世界に冠たる大借金国で、緊縮財政の断行が必須とされ、消費税の引き上げは必至だというのに。老人が増加していく消費者だけが、「痛み」を押し付けられることに、不満はないのか?
こうした疑問に対し、ペセック氏が見つけた答えは、20年来の経済低迷を経験しながら、ホームレスや失業者が群れなすことも、犯罪率が急上昇することもなく切り抜けてきた日本の「特質」、あきらめムード、リーダーがころころと変わることに嫌気がさしていること、だとみている。
しかし、それでも、と同氏は言い添えている。安倍氏に、なんでも思いのままにできるほどの「白紙委任状」を渡してしまえば、そのツケは払いきれないほどの高額になるかもしれない。バランスを見極めて、選挙権を行使すべきだ、と。
【圧勝が足かせに? 安倍氏、大風呂敷をたためるか?】
一方、ロイターは分析記事で、自民の圧勝を予測しつつ、それがかえって安倍氏の仇となるとの見方だ。
同紙は、「本当に日本に必要なのは徹底的な改革だが、それを断行する度胸もビジョンも安倍にはなく、しょせん、大風呂敷を広げているに過ぎない」との識者の談を紹介している。真の改革を目指すならば、「農地改革」「企業が赤字事業を切り捨て、成長セクターに移行しやすくする労働市場施策」「企業税削減」「日本の高齢化の人口減少に対応するための、移民法の改正」など、思い切った手を打たなければならないが、安定志向、懐柔型の安倍氏には、首相の持つ権力である「組閣人事権」と「解散権」を活かした断行はできないとの見方だ。
同紙によれば、皮肉にも「圧勝」こそが、安倍氏の「改革」足かせとなる可能性があるという。選挙のために「国益優先」の姿勢を守っている候補者たちも、ひとたび当選すれば、次の参院選、つまり2016年まで身分を保障される。そうなれば、それぞれの支持基盤の「既得権益」を守ろうとし、総理に「物申す」可能性が高いというわけだ。
このことは、安倍氏にとって「悲願」である憲法改正にも通じる。同盟を組む公明党は改憲には及び腰であり、国民の直接投票にかける要件である、議員の3分の2の票が集まるかは怪しい。
中国・韓国との関係を悪化させるにちがいない「アキレス健」、靖国参拝についても同じで、結局、参拝を期待する支持者と、隣国との関係悪化を恐れるそれ以外との板挟みに苦しんでどちらつかずになりかねないと、同紙は指摘している。
自民は圧勝するのか。そして、その圧勝は、安倍氏にとって、白紙委任状となるのか、足かせとなるのか—世界第3位の経済大国の「有権者」の責任と決断を、世界が見つめている。
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※この記事はNewSphereより提供を受けて配信しています。
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