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シネマカメラが変える、映像業界の未来
エレクトロニクス環境の発展は、我々の生活の中に大きな変革をもたらす。その中でも最近とくに目覚しい変化を遂げているのが「映像製作」を取り巻く状況だ。
これまでは、映像作品を制作するという行為は映画会社やテレビ関係者など、専門家だけに許された特権だった。撮影機材や編集機材は素人が趣味の範囲で手を出せる値段のものではなかったし、技術や専門的な知識を要するものでもあった。しかし、1980年代にソニーのハンディカムシリーズをはじめとするホームビデオカメラが登場したことから、家庭でも気軽にビデオを撮影するという行為が浸透し、「子供を撮影する」という大義名分を得て、世のお父さん方の趣味として定着するまでになった。
しかも、今や高性能のパソコンが家電のように一家に一台が当たり前のようになり、OSに付属している無料の編集ソフトでも、ある程度の動画編集が可能になった上、昨今のインターネットの普及と発展により、Youtubeをはじめ、ニコニコ動画、USTREAMなど、自分の撮影した動画を手軽にネットで公開できる場も増えた。それに伴い、趣味の映像製作もエスカレートし、中にはプロ顔負けの動画コンテンツを配信する素人も続々と現れはじめている。
そんな中、非常に困惑しているのはプロの映像製作者たちだ。映像の制作費が以前に比べて格安になっているのは歓迎されることだが、そのお陰でプロと素人の境界線が曖昧になってしまっている。少し前までは、フルHDの映像を民生機で撮影し、編集するなんてことは不可能だった。しかし、今やハンディカムですらフルHDが当たり前の世の中である。このままこの状況が進めば、プロとアマの境界は完全に崩壊してしまうことにもなりかねない。それでも、これまでは技術的な面ではやはり、プロの映像とアマチュアの映像では大きな隔たりがあった。しかし、その隔たりですら、「シネマカメラ」の登場により怪しいものになりつつある。
シネマカメラとは、いわば動画専用の一眼レフカメラともいえるもので、レッド・デジタル・シネマカメラ・カンパニーの「RED ONE」や、キヤノン<7751>の「CINEMA EOS SYSTEM」に代表されるような、ハイエンドのデジタルビデオカメラのことだ。
もともとは、2008年にキヤノンから発売された「EOS 5D MarkⅡ」がデジタル一眼レフによる動画撮影を実現したことが発端といわれており、その後、ファイルベースの大判センサーを搭載したカメラが続々と発表・発売されている。これまでフィルムでないと表現が不可能といわれていた深みのある映像表現が、デジタルの世界でも可能になったのは、キヤノンによる功績が大きいと言えるだろう。また、更には4Kという超高解像度撮影を可能にした「RED ONE」が登場し、デジタルカメラの新時代の扉を開けた。ハイスピード撮影やHDRなどの撮影手法がデジタルでも可能になったのだ。
そして、この2月には、いよいよソニー<6758>の新しいCineAltaシリーズ、「PMW-F55」と「F5」が発売される。とくに「PMW- F55」は、ソニー渾身のシネマカメラといえるもので、ALEXAやREDにも勝るとも劣らない性能を誇る。「PMW-F55」の優れた性能の中でも、もっとも特筆すべきは4K/60pの撮影を同社が開発した新しいコーデックXAVCで編集できる点にある。新コーデックXAVCを使用することにより、重くて扱いにくかった4K映像もスムーズに編集出来るようになるという。まさに長い月日をかけて積み重ねてきたソニーの技術が込められた一台といえる。
このようなシネマカメラは現在のところはまだ、非常に高価な機材であることは間違いない。しかしながら、他のデジタル製品同様、数年もたてば「贅沢な趣味の範囲」でもこのスペックの製品が手に入る時代が必ず到来するだろう。アマチュアがプロと遜色の無い高スペックのシネマカメラを手に入れたとき、映像業界はまた、新しい選択を迫られることになるのかもしれない。
※この記事はエコノミックニュースから提供を受けて配信しています。
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