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デジタルカメラ、時代はフルサイズへ
2012年は、まさにスマートフォンやタブレット端末がデジタル家電の主役となった一年だった。しかし、その影でひそかに盛り上がりを見せていたのがデジタル一眼レフカメラだ。レンズ一体型のコンパクトカメラが伸び悩む中、レンズ交換式のハイエンドモデルが各メーカーから相次いで発売され、それぞれ好調な売れ行きを見せている。
CIPAの統計データによると、2012年デジタルスチルカメラの生産出荷実績は、レンズ一体型のコンパクトデジタルカメラが1月から10月までの累計の出荷ベースで前年から約2割落ち込んでいるのに対して、レンズ交換式一眼レフカメラは逆に2割以上も伸びており、金額ベースに至っては3割もの大幅な伸びを見せている。ローエンドのコンパクトデジタルカメラがカメラ機能を進化させたスマートフォンに市場を浸食されつつある状況の中、国内大手のカメラメーカーはミラーレスやさらにハイエンドの一眼レフモデルといった、スマートフォンとは別次元の付加価値を持つデジタルカメラのラインナップを強化してきているのだ。
デジタル一眼レフカメラといっても、内蔵している撮像素子のサイズによりさらに分類化される。代表的なものでは、まずオリンパス <7733> やパナソニック <6752> が採用する4/3型(約17.3mm×13mm)のイメージセンサーを使ったマイクロフォーサーズシステムで、ここ数年、デジタルカメラ業界の話題の中心になっているミラーレスカメラの構造に最適な規格とされている。次に挙げられるのがAPS-Cサイズ(24×16mm:メーカーによって大きさは異なる)の撮像素子を搭載したもので、キヤノン <7751> やニコン <7731> 、ソニー <6758> 、ペンタックス(HOYA <7741> )、富士フィルム <4901> の多くのモデルに採用されている。そして今年は、さらに大きなセンサー(36mm×24mm)を採用した35mmフルサイズモデルの新モデルが、キヤノン、ニコン、ソニーの3大メーカーから相次いで発表され、ファンの間で注目された。
35mmフルサイズのデジタルカメラには、銀塩カメラの35mmフィルムの露光面とほぼ同じ撮像素子を採用し、銀塩カメラ用のレンズ資産も使えること、長年フィルムカメラを愛用してきたユーザー層もデジタルへ移行がしやすいというメリットがある。また、マイクロフォーサーズやAPS-Cセンサーに比べると、センサーサイズがかなり大きくなり画素ピッチに余裕がある為、より広いダイナミックレンジや豊かな階調性、優れた高感度処理、さらには一眼レフカメラの醍醐味とも呼べる柔らかいボケ感などが得られ、圧倒的に質の高い空気感のあるデジタル画像を撮影することができる。
デジタルへの移行が始まって数年間、フルサイズのデジタル一眼は、撮像素子が大型になる分、ボディも大きくなり、価格もかなりの高額であったため、画質や耐久性を優先するプロや一部のハイアマチュアユーザーに限られた特殊なカメラだった。しかし、2005年にキヤノンが、「EOS5D」を30万円台という当時では考えられないような低価格で発売したことで、高嶺の花だったフルサイズデジタル一眼レフが一般のユーザーにも手の届く存在となった。2008年に発売されたEOS5Dの後継機になる「EOS5D Mark2」は、2110万画素の高解像度を実現しながら、世界で初めてフルHD動画撮影機能を搭載し、一般ユーザーの領域にとどまらず、スチルカメラのプロの現場や映像制作の現場のワークフローをも変えてしまうほどのインパクトを与え、デジタル一眼レフカメラ分野では異例の大ヒット商品となった。
このように、これまでフルサイズの分野では、世界トップシェアのキヤノンが革新的なモデルを市場に投入し、それがスタンダード化していく流れが強かったように思える。しかし2012年は、最強のライバルであるニコンのフルサイズカテゴリーでの積極的な展開が目立っていた。今年始めにパシフィコ横浜で開催された国内最大級の写真映像関連イベント「CP+2012」にて、有効3630万画素の35mmフルサイズカメラ「D800」を発表し、注目を集めた。前作のD700から3倍以上も画素数をアップし、中判カメラに匹敵するような驚異の高解像度を実現したことで、中判デジタルを使う広告写真の世界でも、D800の能力は高い評価を得た。さらには実売で30万円を切るような価格設定が、ハイアマチュア層に支持され、発売当初から品切れ状態が長く続いた。
それに対抗するかのように、キヤノンはEOS5D Mark2の後継機種となる待望の「EOS5D Mark3」を投入。こちらは画素数を2230万画素と若干抑え、Mark2の弱点だったAFシステムや連写性能、高感度処理などを克服し、総合的にブラッシュアップさせた万能モデルとする方向性を見せた。こちらも発表当初は、「3年以上も待ったのに劇的な進化が見られない」や「ニコンのD800にスペック上負けているのみ、D800より売値が高くするキヤノンの強気なところが気に入らない」といったような厳しいユーザーからの声もあったが、実際に使用したときの操作性や、全てにおいてポテンシャルの高いバランスのとれたスペック内容で徐々に評価が上がり、さらにはキヤノンの強いブランド力と販売力が味方し、こちらも品薄状態が続く程のヒットとなった。
しかし、ニコンはさらに先手を打つ。今年9月に、D800をスペックダウンした有効約2426万画素の「D600」を発売したのだ。こちらは、実売で20万円を切るような大胆な価格設定で、フルサイズのエントリーモデルとして、APS-Cやミラーレスカメラを使っているユーザー層のステップアップを狙った。そしてまた、それを追うかのように、キヤノンが「EOS6D」を発売。重さ755gとフルサイズ一眼レフモデルでは画期的な軽量ボディを実現し、さらに無線LAN機能とGPS機能を内蔵することで、他のフルサイズモデルとは差別化を図っている。価格も「D600」より若干低く設定し、フルサイズでの全体的な地位は譲らないという強い姿勢を伺わせた。このように客観的に見ると、今年は、以前は保守的な印象が強かったニコンが「攻め」の展開を見せ、革新的なイメージがあったキヤノンが「守る」側に立つといった構図に思えてくる。
2強がフルサイズにおいて鎬を削るのを横目に、センサー開発技術には定評のあるソニーは着々と独自の路線でフルサイズモデルの開発を進めていたようだ。特に驚いたのは、35mmフルサイズ 有効約2430万画素イメージセンサーを搭載したコンパクトデジタルカメラ「サイバーショット DSC-RX1」を発表したことだ。ハイエンドの一眼レフモデルにのみ採用されていた大型の35mmフルサイズセンサーを、重さわずか約482gの小さなボディ内に納めることに成功したのだ。今までのフルサイズの常識を覆すこのコンパクトモデルの登場は、来年以降に市場投入が予定されている各メーカーのデジタルカメラにも大きな影響を与えることが予想される。
圧倒的に美しい画質は魅力にしても、フルサイズモデルは、「重い」「高い」「難しい」という印象が強く、これまでは、写真の初心者や、女性ユーザーなどは敬遠してきた傾向は強かった。しかし、2012年、デジタルカメラのセンサー技術が進化し、フルサイズカメラも軽量化、低価格化が進んだことで、初心者でも気軽にデジタル最高峰の画質を得る事が可能になってきた。フルサイズが進化することで、ネクストカテゴリーにあたるAPS-Cやマイクロフォーサーズ規格のデジタルカメラも進化することが考えられることから、2013年は、フルサイズの画質に肉薄する高スペックのAPS-C一眼レフモデルや、さらに軽量化したうえで画質とレスポンスを飛躍的に向上させてミラーレスカメラの登場が期待される。
※この記事はエコノミックニュースから提供を受けて配信しています。
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