「機械離れ」に潜む「機会離れ」とは

2012年4月2日 11:00

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記事提供元:エコノミックニュース

 子どもの理科離れ、機械離れが叫ばれて久しい。理系の学部別入学者数については大きな経年変化はないものの、工学部志願者はピーク時の70万人から、2000年以降は40万人に減少しているという。特に小学校高学年から中学生に進級・進学するにつれて理科離れは深刻さを増しており、2003年の統計では「理科の勉強は大切だ」と思う生徒の割合は小学5年で46.2%であるのに対し、中学2年生になると24.0%にまで減少。「理科の勉強が好きだ」と思う生徒の割合は小学5年生で35.7%であるのに対し、中学2年生では20.8%になるという。

 その原因は「機会を与えられていないだけ」とヤマハ発動機の部品事業部に所属する田中氏は語る。田中氏はヤマハ発動機のボランティアグループの1つ、「おもしろエンジンラボ」の中心メンバーの一人。2002年に発足し、今年で10年目を迎える同グループは、新入社員からOBまで36人ものメンバーが名を連ね、日本各地で子どもたちにモノ創りの楽しさを伝える活動「エンジン分解組立教室」「ウインドカー工作教室」「電動乗りもの教室」などを実施している。その活動の中で「機会を用意してあげれば、子どもたちは何かの刺激を受けてくれますし、またそのうちの何割かはそこから先にも興味を広げてくれている」という実感を得ているという。

 こういった教室で利用する教材で大切にしているのが、組み立てやすい構造であること、道具を使いモノ創りの実感を得られること、ある程度の性能を発揮することや工夫の余地を残すこと、であるという。また、部品はキットとして配布せず自分で集める、モニターにタイムを掲出して競争心や向上心をかき立てるなどの工夫もなされている。例えば、活動の一環である「ウインドカー工作教室」。ウインドカーとは、風のエネルギーを利用して風上に向かって走る木製の模型である。子どもたちはボランティアスタッフの指導を受けながらこの模型を自分で組み立て、走らせ、競い、そして改良を加えながら「どんな仕組みで走るのか、なぜ思うように走らないのか?」といった原理原則を学んでいるという。

 理科系分野に興味を持つきっかけは、自然の中での遊びや機械類をいじることなどが多いだろう。しかし、現代の子供たちにはそういった機会が減っている。田中氏が「まれにハンマーで自分の手を叩いてしまう子もいますが、そうした経験も道具の扱い方を学ぶプロセス」と語るのも、子どもの安全を意識し過ぎるあまり、様々な経験を積む場が激減している現状があり、興味を持つ機会が少ないことを実感しているからこそであろう。

 「中学生の頃にウインドカー教室を受講した」という青年が「モノ創りにかかわる仕事に就いた」と挨拶に来たことがあるという。機会さえあれば、理科や機械に興味を持ちうるということの好例であろう。日本経済の主幹とも言える製造業を支えるものに、高い技術力がある。その技術力を支えるのが、理科や機械に対する興味であろう。ボランティアに頼らなければ興味を持つ機会を得られなくなっているというのは少し寂しい気もするが、少しでも多くその機会を提供出来るよう、こういったボランティアが今後も広がることを期待したい。

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