脳活動から歯の噛みあわせの「違和感」を可視化ー歯科治療の適応を高精度に推定ー
配信日時: 2016-06-16 15:30:00
明治大学理工学部電気電子生命学科の小野弓絵准教授は、神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔機能修復学講座の玉置勝司教授、宗像源博講師の研究グループと共同で、口の中に原因がないにもかかわらず噛みあわせの違和感を訴える、歯科治療の適応外となる患者を、患者の脳活動から精度よく推定する手法を開発しました。
虫歯や入れ歯などの歯科治療による上下の歯の噛みあわせの違和感は、患者の申し出に基づいて、歯科医師が詰め物や入れ歯の高さを直すことで通常は解消されます。しかしまれに、噛みあわせ自体には医学的な問題がないにもかかわらず、心理的なストレスなどが原因で歯の噛みあわせに強い違和感をおぼえる「咬合違和感症候群」(狭義: Occlusal discomfort syndrome, 以下ODS)の患者が存在します。ODS患者の口腔の違和感は原因となるストレスの解消によってのみ緩和され、歯科的な治療では症状が改善せず、かえって悪化します。しかし違和感を訴える患者が歯科的な治療で改善する一般患者なのか、歯科的な治療を行ってはいけないODS患者なのかを定量的に診断する手法はこれまでなく、口腔内に原因を求めるODS患者によるドクターショッピングや、症状が治癒しないことからの歯科医師とのトラブルも生じていました。
研究グループは、歯を噛みあわせるという行為に対して強い注意が引き起こされるODS患者の特性に着目しました。人体に無害な近赤外光を使って脳の活動を計測する近赤外分光法(NIRS)を用い(図(a))、歯を噛みあわせた際の能動的な注意によって引き起こされる脳活動を検出したところ、ODS患者と非ODS患者ではその時系列パターンが大きく異なっていました(図(b))。統計的パターン認識という手法を用いて、NIRS波形の変化量から、その患者がODSであるかないかを判定させる識別器を作成したところ、92.9 %の正確さでODS患者を識別することに成功しました。
体温や血圧のように、注意の強さを数値化して示すことを可能にした本技術は、歯科医師にとって定量的なODSの診断基準をもたらし、不要な歯科治療によるリスクの低減が期待できます。またODS患者にとっても、脳活動を視覚化して捉えることで違和感の原因が理解しやすくなり、適切な治療への移行や、医療費の削減、QoLの向上に繋がることが期待されます。また本研究で用いたNIRS装置は歯科用の椅子(デンタルチェア)上でも計測が可能な小型・無線タイプであり、一般の診療所における応用も十分に期待できます。
本研究は、歯科医学の国際誌『Clinical and Experimental Dental Research』のオンライン版(アメリカ東部標準時間6月14日付け)に掲載されました。
掲載紙情報: Ono Y, Ishikawa Y, Munakata M, Shibuya T, Shimada A, Miyachi H, Wake H, Tamaki K. (2016) Diagnosis of occlusal dysesthesia utilizing prefrontal hemodynamic activity with slight occlusal interference. Clinical and Experimental Dental Research 2(1). Article in Press. doi: 10.1002/cre2.32
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プレスリリース提供元:@Press
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