阪大ら、太陽系誕生時の有機物を含む隕石の非破壊分析に成功

2017年11月16日 11:48

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大阪大学MuSICのビームライン(写真:原子力機構の発表資料より)

大阪大学MuSICのビームライン(写真:原子力機構の発表資料より)[写真拡大]

 大阪大学の寺田健太郎教授、佐藤朗助教、二宮和彦助教らの研究チームは13日、日本原子力研究開発機構(原子力機構)及び現東京大学の橘省吾教授らと協力し、ミューオンX線分析法により、有機物を含む炭素質コンドライト隕石の非破壊定量分析に成功したと発表した。

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 「はやぶさ2」が持ち帰る小惑星物質のキャラクタリゼーションを想定した、炭素質コンドライト隕石の非破壊定量分析に成功。非破壊定量分析には、世界最高効率のミューオンビーム生成装置MuSICを使用したが、これも阪大が開発した装置だ。

 炭素質コンドライト隕石は、炭素、硫黄、水などの揮発性成分を多く含んでいる隕石グループの総称。この隕石は固結してから高温を経験しておらず、太陽系創生時や太陽系形成前の情報を保持しているという。

●「はやぶさ2」とは

 燃料漏れ、エンジン停止、通信不通などのトラブルを抱えながらも、2010年帰還した「はやぶさ」は多くの人々に感動を与えた。

 「はやぶさ2」は小惑星探査機「はやぶさ」の後継機だ。太陽系の起源・進化と生命の原材料物質を解明するため、近地球C型小惑星からのサンプルリターンを目指す。

 2014年に打ち上げられ、2018年に小惑星に到着予定。小惑星表面から試料を採取し、2020年に地球に帰還する。

 今回の発表は、「はやぶさ2」が持ち帰る隕石の非破壊定量分析の実験の成功だ。

●ミューオンX線分析法とは

 阪大の核物理研究センターが開発した世界最高効率の大強度ミューオンビーム生成装置MuSICを用いた非破壊物質分析だ。試料を壊すことなく元素の分析が可能となる。

 ミューオンは電荷が負で、質量が電子の約200倍の素粒子。平均寿命は2.2×10-6秒と不安定である。この負ミューオンを隕石に入射すると、原子核を周回する電子が遷移する過程でX線が放射される。この特性X線のエネルギーが元素に固有であることから、隕石を構成する元素の濃度分布を行うという仕組みだ。

 最近発見された炭素質コンドライト隕石である「Jbilet Winselwan」の特性X線分析を行い、地球惑星物質中のMg(マグネシウム)、Si(ケイ素)、Fe(鉄)、O(酸素)、S(硫黄)、C(炭素)元素の非破壊定量分析に世界で初めて成功したという。

 なお、ミューオンビームが利用できる実験施設は、世界に5施設のみ。その内の2つの施設が日本国内にあり、日本はミューオン特性X線分析の先進国だ。

●非破壊物質分析(阪大ら、ミューオンX線分析法)のテクノロジー

 ミューオンX線分析法は、サンプルにダメージを与えることなく、非破壊で炭素や酸素を定量的に分析。さらには、太陽系初期につくられた有機物の主成分の非破壊分析を可能とする大きなポテンシャルを秘めた唯一無比の分析手法である。

 なお、本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」にオンライン公開された。(論文題目「Non-destructive elemental analysis of a carbonaceous chondrite with direct current Muon beam at MuSIC」)(記事:小池豊・記事一覧を見る

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