錬金術が学問になる?ノーベル賞を受賞した重力波検出の裏舞台で

2017年10月28日 16:22

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中性子星合体をおこした重力波源 GW170817 の想像図。(写真:国立天文台発表資料より)

中性子星合体をおこした重力波源 GW170817 の想像図。(写真:国立天文台発表資料より)[写真拡大]

 今年のノーベル物理学賞は、世界で初めて重力波を観測したキップ・ソーン博士ら3氏が受賞した。その発表を示唆するかのように、8月17日には、LIGO-Virgo共同実験の重力波観測がその予兆を捉え、全世界の天文学者や関連機関に急報。その直後から世界中が望遠鏡や天文衛星で観測が行われ、初めて中性子星同士の合体から重力波源を確認した。

【こちらも】ノーベル物理学賞、重力波の検出に貢献したLIGOの研究者3氏が受賞

 このような世界中を駆け巡ったニュースの裏舞台で、国立天文台の田中助教や東北大の當真(とうま)助教らは、この中性子星同士の合体から金などの貴金属が生成されたと示唆した。

●錬金術の歴史

 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、空気、火、水、土の四つの元素が宇宙を構成し、この元素間は相互に変換可能と考えた。この着想に刺激されて、神が宇宙を創造した過程を再現すべく、錬金術が生まれたという。

 錬金術は、中世までは自然科学と共存した学問であった。それは、現代物理学の父ニュートンが最後の錬金術師と呼ばれるように、錬金術に深く関わり文献を残しているからである。

 錬金術の成果は現在にも残る。紀元前の中東での蒸留の発明、8世紀頃の中東での硝酸の生成、唐の時代の火薬の発明などである。またマイセン磁器の透けるような白は、錬金術を応用して、東洋の白磁を分析した結果といわれる

●国立天文台の「金の生成」示唆

 国立天文台の田中助教らは17日、「重力波源からの光のメッセージを読み解く ―重元素の誕生現場,中性子星合体―」の論文を発表した。

 中性子星合体では、鉄より重い金やレアメタルなどの元素を合成する過程が起き、新たに作られた元素の放射性崩壊によって電磁波が放出されること(キロノバ)が天文シミュレーションによってかねてより予測されていたという。

 観測された光赤外線対応天体の性質はキロノバ放射の理論計算と一致しており、中性子星合体で金などの重元素合成が起きたことを強く示唆するという。

●東北大の「金の生成」示唆

 東北大学学際科学フロンティア研究所の當真(とうま)助教らは23日、「中性子星合体からの光は偏りが小さかった 〜宇宙の金の生成現場であることを明るさの観測とは独立に示唆〜」の論文を発表した。

 8月17日、世界の約70の観測所がこの1つの天体現象の光の明るさを測定しようとした中、光の振動方向の偏りを測定したことが、金の生成を示唆する結果となったという。

 中性子星合体からの光は偏りが小さかったことは、中性子星の合体によって金やプラチナなどの重い元素が作られたということを示唆するという。

●錬金術が学問になるか

 アインシュタインが重力波を予言してから100年、実際に重力波を観測することに成功。この重力波の観測における着眼点の違いから、錬金に辿り着いたのが論文の主旨である。

 より多くの中性子星合体現象から光の偏りや電磁波を観測していくことで、元素の生成プロセスの解明につながる可能性があるらしい。つまり、錬金術が再び自然科学の学問となる日も近いのかもしれない。(記事:小池豊・記事一覧を見る

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