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EV車・自動運転開発の裏にみる、自動車産業 VS IT産業のギャップとは?
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今年6月にトヨタがテスラ株をすべて売却し、協業が決裂したのは記憶に新しい。テスラとの協業には、トヨタがEVシフトに大きく一歩を踏み出すとみて期待する向きもあったと思うが、企業風土の観点からは決裂するのが当然とみるのが正しいだろう。ご存知の通り、テスラ・モーターズCEOのイーロン・マスク氏はIT産業出身であるが、その思想にはやはり歴史のある自動車産業とは相いれないところがあるようだ。
【こちらも】トヨタ、テスラ株を全て売却、協力関係からライバル関係へ
■ドイツ自動車大手もアップルと袂を分かつワケ
アップルと提携を模索していたBMWとダイムラーも、2016年に協業に関する交渉を中止している。ここにも自動車産業とIT産業のギャップを感じざるを得ない。
単刀直入に言ってしまうと、「0.01%の不良率を競うシビアな製造業」と「フリーズしても肝要なIT産業」の差である。0.01%の不良率といったら、1万個の製品を造ってやっと1個の不良が出るかでないか。特に、日本製品は「100%良品」という考え方が普通で、不良品はあってはならないのだ。一方、IT産業のパソコンOS「Windows」を例にとってみると、使用時にフリーズすることはかなりの確率である。特にWindows95時代は多くの人がフリーズに苦しんだ。製品が日常の使用に耐えないことは、自動車産業から見るとあり得ない事態だ。(現在、神戸製鋼の不正が明るみに出たが、日本の製造業にとって由々しき大問題である。)
参考:これがドイツ自動車大手の「EV量産戦略」だ テスラなどの新興メーカーに対抗
上記の記事の中で、独・ボッシュの責任者も「電子機器なら動作異常が起きてもどうということはないが、我々が扱っているのは時速160キロで走るものだ。(PCのように)『死のブルースクリーン』が突然現れるようなことは誰も望まない」と言っている。製品に対しての根本的なスタンスが違うのである。
■「実用化」の難しさを知る自動車産業
つまり、IT産業は「実用化技術」の概念が欠落していると言える。往々にして、IT産業しか経験していないと、アイデアが先行しすぎて実用化に対して思いがいたっていないことが多い。とても初歩的なところでは、DeNAのヘルスケア情報サイト「WELQ」が医学的に誤った記事を多数掲載して閉鎖になった例だ。アイデアを容易く形にして世に出すことが可能なため、実用に耐えうるものかどうかを十分に検証していないのが問題である。企業の社会的責任を無視しているともいえるのだ。
そのうえで、トヨタが自動運転技術に対して慎重なのは必要なことなのだ。ボッシュの責任者も「あの古き良きハードウェアに、どれほどの精巧さが詰まっているか過小評価する傲慢にはリスクが伴う。車を作り上げている各部品には130年分の進化があり、痛い目にあって学んだ教訓も込められている」と言っている。IT出身者からは「守りの姿勢」と揶揄されているようだが、「実用化」の難しさを現実的に知っているのは自動車産業の方だ。
IT産業との大きな違いであるもう1つの技術は、「量産技術(生産技術)」である。製品をネットで気軽に配信できるのとはワケが違う。いかに製品を安定して品質高く、作りやすく、効率的に適量を生産して、メンテナンスしていくことができるかは、後からバグ(不良)が見つかって気楽にネットを使い修正していけるソフトとは、これまた想像を絶する違いがあるのだ。
自動運転は、今、実用化が始まろうとしている。テスラの事故を分析してみれば、人間の目で見ていたのであれば、前後の関係で少なくとも減速動作に入っていたと思われ、最悪の事態は避けられた可能性が高いと考える。「安全で、継続して不良を起こさず、想定外のない品質を確保する」実用化技術が、現状では欠落していることが見える。
着実に「実用的」な自動運転車が、早く登場することが望まれる。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る)
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