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【連載第2回】「電力自由化」に続くかたちで、2017年4月から始まった「ガス自由化」。「ガス自由化」によって、私たちの生活は何が変わるのでしょうか? そもそも「ガス自由化」とは、何を目的に、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?本連載では、「ガス自由化」と今後のエネルギー業界の動向を解説します。
本連載は2017年6月に発売した江田健二氏の書籍『かんたん解説!! 1時間でわかる ガス自由化入門』を許可を得て、編集部にて再編集し掲載しています。via かんたん解説!! 1時間でわかる ガス自由化入門 (NextPublishing) | 江田 健二 | 工学 | Kindleストア | Amazon
自由化によってガス料金が下がる理由
これからは、今までより安い料金でガスを提供する新規参入企業が増えていくと予測されます。ではなぜ、新規参入のガス事業会社はガス料金を下げることができるのでしょうか? これまでガス料金が高すぎたということでしょうか?
ガス料金は、これまでも国の主導の下、適切な料金でした。決して高すぎたわけではありません。では、どうして、新規にガス事業に参入する会社は、料金を安くできるのでしょうか?
その理由をここでは、2つ紹介します。
1つ目は、ターゲットを絞ったビジネス展開が可能だからです。都市ガス会社は、これまで競争が少ない見返りとして、担当する地域の全ての希望者にガスを供給する責任がありました。そのため、様々な人員や設備を備える必要がありました。そこで多くの設備投資コストが必要となり、コストを回収できる料金設定にする必要があったのです。
それに比べて、新しくガス事業に参入する会社は、自分たちが販売したい顧客層や地域に的を絞ってピンポイントでビジネスを展開できます。つまり、効率的な組織で、絞った顧客に対して、今よりも安いガス料金を提案できるのです。例えば、ガスをたくさん使っている家庭に的を絞ったり、家庭への販売は行わず飲食店などだけ絞って効率的に営業をすることもできます。また、自社の影響力が強い地域に絞って営業することもできます。
2つ目は、他のサービスとのセット販売による料金引き下げです。
電力自由化での事例を紹介すると、通信会社は自社の携帯電話プランとセットで電気の割引を行っています。ガソリンスタンドを展開する石油会社は、セットで申し込むと電気とガソリンが一段と安くなるなどのメリットを打ち出して消費者にPRしています。
具体的な数字で見ても、10%近く電気代が下がった家庭や企業もあります。もし年間20万円の電気代を使っている家庭であれば、1年間で2万円の節約につながります。10年間で20万円となると、これは見逃せない金額です。
新規参入事業者は、既に多くの消費者と接点を持っている本業があります。その商品やサービスとセットで販売することで、料金を今よりも安く提案することができるのです。
このように、電力自由化の際と同じことが今後、ガス事業でも起こります。またこれはとても大切なことですが、ガス自由化により、全ての消費者が何もしなくても得をするというわけではありません。つまり、得する消費者とあまり得をしない消費者が生まれるというこということです。
確かに料金プランが多種多様となりますので、ガス会社を選択することに手間暇がかかるというわずらわしさはあります。だからといって、「とりあえず、今のガス会社に任せておけばいいだろう」という考えだと、知らないうちに損をしていることになるかもしれません。
これからは、ガス会社や電力会社に任せておけばよい、という時代から「自分のライフスタイルを見直して、しっかりと吟味することが必要な時代」に変わります。選べる自由を手に入れた分、責任も自分たちが持つ時代になるのです。ぜひ、積極的に情報収集を行いましょう。
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自由化が始まる前のガス会社は200以上
ガスにおいても電力と同様、自由化が始まる前から家庭にガスを届けていた事業者がいました。その数は200以上にもおよび、電力の10社体制と比較すると母数が随分と違うことが分かります。
東京電力や中部電力など、10電力会社のほぼ全てを把握している方は多いと思いますが、ガスを販売している企業を網羅している方は相当少ないのではないでしょうか。
このように、家庭向けに都市ガスを販売している事業者は非常に多かった一方で、1事業者あたりの規模は比較的小さいものでした。
具体的には、都市ガス事業者の9割以上が従業員数300人以下となっており、そこが電力会社との大きな違いでした。
また事業者数という意味では、ほとんどが規模の小さなガス事業者が占めていました。ただ、需要家ベースでみると、そのほとんどを上位ガス10社が占めている構造となっていました。
大手4社・準大手6社の計10社が、全ての需要家数の8割近くを抱えており、大きな存在感を示すような業界構造でした。都市ガス事業者の中で最も顧客数が多いのが、東京ガスです。平成28年9月5日に開催された「エネルギー小売事業者の省エネガイドライン検討会」の資料によると、その顧客数は1000万件を突破しており、全体(約3000万件)の4割近くを占めます。次点で大阪ガスの720万件(全体の24%)、東邦ガスの240万件(同8%)、西部ガスの110万件(同4%)とつづきます。この4社が大手ガスとなり、全体の約7割もの顧客を抱えています。
次に、準大手と呼ばれる6つのガス会社を見ていきます。
準大手トップの京葉ガスが90万件(全体の3.0%)の顧客数であり、北海道ガスの56 万件(同1.9%)、広島ガスの41万件(同1.4%)、北陸ガスの37万件(同1.2%)、仙台市の35 万件(同1.2%)、静岡ガスの32万件(同1.1%)と続きます。
これらの準大手が抱える顧客数は、全体の1割程度を占めています。
前述したように、これまでのガス業界は200社以上ものガス会社が存在する中、大手と準大手の10社で8割以上もの顧客を抱えていました。大部分の需要を数少ない大きな企業が抱えている構造であり、残りの需要を小規模な事業者が引き受けていました。
ただ、ガスの全面自由化により、長期的には異業種など様々な形の参入が想定されるので、これからは業界構造が変わっていく可能性も十分に考えられます。
参入障壁の高いガス事業
ガス自由化によって多種多様な企業が参入できるようになりましたが、具体的にはどのような企業が参入しているのでしょうか。
2017年3月時点において、ガス小売では合計で45社の企業が小売事業者として登録しています。一方で電力はというと、電力自由化が始まる直前の2016年3月までには200社以上が参入を表明していましたので、ガスと比較すると5倍程度の開きがあります。
これほどまでの差が出る大きな要因の一つは、電力と異なりガス事業は参入障壁が高いからです。
参入障壁を高めている理由としては、例えば燃料調達の難しさが挙げられます。ガスには電力のような卸市場がなく、加えてLNG(液化天然ガス)基地の利用も必要であるといった要素が、ビジネス開始の出発点に立つことを困難にしています。
加えて、ガス小売のビジネスを始めた後も、例えば電力のような時間帯別料金プランなどは作りづらいものと考えられます。ガスは電気と異なり貯蔵が可能ですし、一次エネルギーのため負荷平準化による省エネルギー効果は少なく、そうした性質が他社との料金プランにおける差別化を難しくします。
ただ、まだまだ数は少ないですが、電力と同様、ガス小売事業者もこれから次第に増えていくと想定されます。 元のページを表示 ≫
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