アイドル業界から出てきた「ヲタ斬り」という動き

2017年3月11日 17:08

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 アイドルにとって、ファンとは有り難いものだ。彼らがCDやDVD、あるいはグッズを買って落としてくれる金で、グループは収益を高め、それはメンバーの給料、あるいはプロモート、次のイベントへ還元されていく。また、ファンレターやSNSのコメントで勇気づけられたり、支えにしているメンバーも本当に多い。今でももう7~8年前の現役時代にもらったファンレターを、大切にファイリングしている元アイドルもいる。

 しかしながら、最近になって『ヲタ斬り』というキーワードがアイドル業界周辺で飛び交いだしているという。きっかけは2014年5月のAKB握手会襲撃事件(入山杏奈・川栄李奈が負傷した事件)だが、先ごろ裁判になった女子大生シンガー傷害事件で、改めて浮き彫りになった形だが、その裏には、単なるセキュリティの問題だけではなく、その後の芸能活動を見据えた上でも必要とされてきているという流れになっている。

 どういうことかというと、当たり前の話であるが、卒業をすれば握手会などのイベントはなくなる。それでも、CDを発売したり、イベントをしたり、タレント活動はしているわけだが、ファンのほとんどは、別の「アイドル」に流れてしまうため、みかけの知名度と、期待できる集客数においてズレが生じてしまう。そして、そのズレは無責任なネット雀の餌となり、「終わった」「引退しろ」「AVはよ」といった罵詈雑言に変わり、アイドル自身も病んでしまう。

 特にAKB界隈のファンは、グループのコンセプトに「アイドルの成長過程を楽しむ」という部分があるため、歌や演技、ダンスなどのスキルは人気には反映されてこないため、そこを卒業したメンバーは、新しい立場で、一人のタレントとして見たときに、最初から「人気先行の客寄せパンダ」的な色眼鏡で見られてしまう傾向が強い。前田敦子が、卒業後、半年間を充電期間に充てたのは、「AKBのあっちゃん」=「大根役者」のイメージを消し去るために必要だったからだと言われている。しかも、そうさせているのは他ならぬ「アイドルヲタ」であり、彼らは、メンバーのスキルの話になると「アイドルの中で上手いだけ」「外では通用しない」と、自虐のつもりなのか、演技や歌の良し悪しを理解できない自分が置いてけぼりにされるのが怖いのか、やたらと貶めたがる傾向が強いのである。

 このような現状を踏まえると、卒業を視野に入れ始めたメンバーや、芸能界で長く活動したいと考えるメンバーは、「アイドルとしての自分」ではなく、「自分自身」を認めてくれるファンを大切にしたくなるというのである。ともすれば、アンチ活動を始める精神年齢の幼稚なヲタより、きちんと自分のスキルや考え方に共感し、応援してくれるファンを育てたいという意識が、例えば卒業する小嶋陽菜やアイドルとしては年長になった白石麻衣の発言や態度にあらわれ、結果として女性ファンや良質なファンが増えていく。

 いい例となったのが、指原莉乃(HKT)や松村沙友里(乃木坂)であり、スキャンダルが起きたことで、ネットが中傷一色になっても、彼女たちを支え続けたファンは多数おり、握手会で、あるいはファンレターやSNSのコメントでフォローし続けた結果、再び人気を回復した(指原にいたってはジャンプアップした)。また、スキャンダル絡みの卒業と言われた増田有華(元AKB)や畠中清羅(元乃木坂)が小さなイベントに出演するときも、しっかり応援し続けるファンが確実に存在した結果、ソロデビューや映画主演にこぎつけることもできた。

 すべてのアイドルが、卒業後武道館や東京ドームを埋めるようなスターになれるわけではない。人気・知名度の高い、板野友美や高橋みなみだって、今ソロコンサートで武道館を埋めることは難しいだろう。アイドルを卒業し、自分の身の丈にあった、しかし、タレントとしての最低ラインはキープしつつ、セカンドブレイクをしっかりと迎えるという理想形を、アイドル自身が意識し始めるようになった今、ファンもまた成長することを求められている。(記事:潜水亭沈没・記事一覧を見る

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