「精子になるか、卵になるか」を決める遺伝子を発見―欠損するとメスの卵巣内で精子を形成

2015年6月14日 21:13

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foxl3機能欠損メスメダカのヒレは丸みを帯びており(左図、点線)、身体はメス型だった。右図は卵巣を白い点線(中央図)で輪切りにしたもの。foxl3機能欠損メスメダカの生殖腺は卵巣に特徴的な卵巣腔を形成し、卵巣内には少数の卵と多量の精子が詰っている。白四角内の白い粒が精子。スケールバー50µm。(基礎生物学研究所の発表資料より)

foxl3機能欠損メスメダカのヒレは丸みを帯びており(左図、点線)、身体はメス型だった。右図は卵巣を白い点線(中央図)で輪切りにしたもの。foxl3機能欠損メスメダカの生殖腺は卵巣に特徴的な卵巣腔を形成し、卵巣内には少数の卵と多量の精子が詰っている。白四角内の白い粒が精子。スケールバー50µm。(基礎生物学研究所の発表資料より)[写真拡大]

 基礎生物学研究所の西村俊哉研究員と田中実准教授らの研究グループは、「精子になるか、卵になるか」を決める遺伝子を同定し、生殖細胞の性が決まる仕組みを明らかにした。

 精子と卵は生殖細胞という共通の細胞から作られることが分かっており、精巣と卵巣を合わせて生殖腺と呼ぶ。一般的に、脊椎動物では生殖腺の体細胞の性が決まった後に、その体細胞の影響を受けて、「精子になるか、卵になるか」という生殖細胞の性が決まると考えられているが、生殖細胞の中でどのような遺伝子がはたらき、「精子になるか、卵になるか」という運命が決まるのか、脊椎動物では全く明らかになっていなかった。

 今回の研究では、foxl3と呼ばれる遺伝子が、卵が作られる過程のメスの生殖細胞で働いているのに対して、精子が作られる途中のオスの生殖細胞では働きが抑えられていることを発見した。

 そして、foxl3の機能が欠損したメダカのメスは、通常のメスと同様に卵巣を作り、身体もメスであること、卵巣の中で精子が作られていることを発見した。卵巣の中で作られた精子は受精可能で、その受精卵から正常なメダカが誕生したため、精子が機能的であることも示された。

 これらの結果は、foxl3がメスの生殖細胞で働き、「精子形成を抑制」する機能を持つことを示している。メスでは、卵ができる過程で、foxl3によって精子形成が抑制され、卵が出来る。一方、通常のオスでは、Y染色体上の性決定遺伝子DMYが体細胞で働くことにより、foxl3の発現が抑制され、その結果、精子が作られていると予想される。

 また、foxl3機能を欠失したメス(最初は精子ばかりを作っていた)は歳を経ると、理由はわからないながら、少数ながら卵も作ることが明らかとなった。そしてこの卵も受精可能であることが示された。つまり、歳をとると一つの個体の卵巣内に受精可能な多量の精子と少数の卵を作ることが明らかとなった。

 研究グループは、今後、オスの生殖細胞でfoxl3の発現が抑制されるメカニズムや、メスの生殖細胞でfoxl3が具体的にどのように精子形成を抑制しているのか明らかにすることで、「精子になるか、卵になるか」という生殖細胞の性が決まる仕組みについて深い理解が得られると考えられるとしている。歳を取った同一個体内に受精可能な卵と精子ができる現象も非常に興味深く、機構の解明が望まれるとしている。

 また、foxl3の機能を欠損させたメスでは、通常のオスよりも短期間で機能的な精子が得られることも明らかとなったため、水畜産育種への応用研究も現在進められているという。

 今回の研究内容は米科学誌「サイエンス(Science)」に掲載された。論文タイトルは、「foxl3 is a germ cell-intrinsic factor involved in sperm-egg fate decision in medaka」。

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