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国際研究チームがプランクトンの大規模調査、4000万個の遺伝子カタログを作成 海洋表層には15万種の真核生物
ガラパゴス沖で採取された動物性プランクトン(© C. Sardet / CNRS / Tara Oceans / Plankton Chronicles)[写真拡大]
京都大学の緒方博之教授らが参加した国際共同研究チームは、目に見えないプランクトンの世界の大規模調査を行い、多数の遺伝子情報などを得ることに成功した。
プランクトンは地球上の酸素生産の50%を担い、食物網の基盤として海洋生命を支えている。しかし、プランクトンの多くは微視的な生命体であり、その多様性、生態、機能、地球環境変動との関係ついては科学的な理解が進んでいない。
今回の研究では、帆船タラ号で、太陽光が届く表層(水深平均5m)、光合成活性の高い亜表層クロロフィル極大層(水深平均70m)、太陽光の届かない中深層(水深平均600m)の3つの水深で、3年間をかけて3万5,000個の海洋プランクトンサンプルを収集した。サンプルの一部について、これまでで最大規模のDNA配列解析を行い、ウイルスから動物性プランクトンまで、様々な微視的生命体の遺伝情報(メタゲノム)を得た。
このうち、3μm以下の微生物群サンプルからのゲノムからは、7兆塩基の遺伝情報を得ることができた。既存のデータベースに記載されている遺伝情報と合わせて、4,000万の遺伝子からなる大規模な遺伝子カタログが作成された。4,000万の遺伝子のうち80%が今回の探査で初めて明らかになったという。
真核生物(原生生物、動物性プランクトン、0.8μm~2mm)の遺伝解析では、11万の異なる種が海洋プランクトンとして存在していることが明らかになった。この結果から、海洋表層には、これまでに明らかになっている種の数(約1万1,000種)を大きく上回る約15万種の真核生物が存在すると理論的に予測された。ウイルスの解析も行い、ウイルス由来の遺伝子は約100万種類あること、局所的な多様性が極めて高いことも明らかになった。
プランクトンの分布については、微生物の種分布と環境変数(温度、塩濃度、pH、酸素濃度、栄養源など)の関係について計算機で解析した結果、種分布を最もよく説明する変数は温度であることが分かった。太陽光が到達可能な深さでは、水温に依存して、異なる生物群集が形成されることが示された。
環境との相互作用として、インド洋の水塊が大西洋に入り込む喜望峰沖の地点で生じる海流の渦がインド洋側プランクトン群集と大西洋側プランクトン群集を分離し低温下に置くことで、海洋の境界を超えていく生物種の数を制限していることも分かった。
今回の海洋探査は、世界中の海洋で、全てのドメイン(超生物界、生物分類の最上位の階層)にわたり、ウイルスから動物まで、さまざまな環境指標とともに、生物を系統的に採取したことに特徴がある。収集されたデータは、一般に公開され、気候変動が海洋エコシステムに及ぼしている影響を地球規模で評価するための今後の貴重な基盤になるという。
研究メンバーは、「海洋は未知の宝庫です。タラ海洋探査により従来の規模を大きく超えるプランクトンデータが得られました。このデータリソースは、地球環境を海洋生命という視点で解明するための重要な研究基盤となっていくでしょう。」とコメントしている。
なお、この内容は「Science」に掲載された。論文タイトルは、「Structure and function of the global ocean microbiome」。
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