東大、超伝導体の「軌道角運動量パラドックス」を解明

2015年5月18日 17:15

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軌道角運動量パラドックスの概念図。各粒子ペアが回転しているときに、超流動体全体の回転量(軌道角運動量)がどれくらいの大きさになるのかという問題は、超流動研究において40 年来の未解決のパラドックスであった。(東京大学の発表資料より)

軌道角運動量パラドックスの概念図。各粒子ペアが回転しているときに、超流動体全体の回転量(軌道角運動量)がどれくらいの大きさになるのかという問題は、超流動研究において40 年来の未解決のパラドックスであった。(東京大学の発表資料より)[写真拡大]

 東京大学の多田靖啓助教と押川正毅教授らは 構成粒子(原子や電子)が二つずつペアを組んで回転しているような超流動体(超伝導体)の回転の強さを数学的に厳密な方法によって解析し、従来考えられていたよりも一般化したうえで理論的に解決することに成功した。これによって、超流動・超伝導現象に関する基礎的理解がさらに進展することが期待されるという。

 超流動体(超伝導体)は物性物理学の中心的課題の一つであり、流体が摩擦なく流れたり電気抵抗が消失したりするという際立った特徴を持っている。このような基本的性質は、超流動体の構成粒子が量子力学的なペアを組みながら動いていることによって理解されている。超流動体全体の回転量(軌道角運動量)は各ペアの回転運動の最も直接的な帰結の一つであるにもかかわらず、その大きさについては長い間論争が続いており、「軌道角運動量パラドックス」として知られ約40年間にもわたって未解決の問題となっていた。

 今回の研究では、パラドックスの原因となりうるカイラル超流動体の量子力学的性質を注意深く取り扱える理論を構成し、粒子ペア一つが持つ軌道角運動量が最小値である1の場合には、超流動体全体の軌道角運動量の大きさは、全ての粒子が回転しながらペアを作る場合に期待される巨大な値に厳密に等しいことが分かった。さらに、粒子ペア一つが持つ軌道角運動量が2以上の場合についても問題を一般化し計算を行い、この場合にはペア毎の軌道角運動量が大きいにもかかわらず、超流動体全体としては軌道角運動量がほとんどゼロとなることを明らかにした。

 今後は、本研究成果によって、超流動現象に関する基礎的理解がさらに進展すると期待されている。

 なお、この内容は「Physical Review Letters」に掲載された。論文タイトルは、「Orbital Angular Momentum and Spectral Flow in Two Dimensional Chiral Superfluids」。

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