盲目のラットが磁気センサーの移植で地理感覚を獲得、迷路を解けるように―東大

2015年4月6日 16:26

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(A)磁気センサー脳チップの配線図。デジタル磁気センサーに能刺激電極2本を接続した。(B)磁気センサー脳チップの外観。(C)ラットの頭部に装着したイメージ図。大きさは長さ25mm、幅10mm、厚さ9mm、重量は2.5g(東京大学の発表資料より)

(A)磁気センサー脳チップの配線図。デジタル磁気センサーに能刺激電極2本を接続した。(B)磁気センサー脳チップの外観。(C)ラットの頭部に装着したイメージ図。大きさは長さ25mm、幅10mm、厚さ9mm、重量は2.5g(東京大学の発表資料より)[写真拡大]

  • 今回の実験で実施した迷路課題と結果を示す図。(A)ラットは30秒間の大気後、スタートボックス1、2、3のいずれかから出発し、90秒以内に2つの餌(報酬A、B)の両方を食べなければならない。(B)2つの餌に到達する前に餌のないアームに間違えて入った回数。盲目群(目の見えないラット)と比べて正常群(目の見えるラット)と盲目+センサー群(センサーを埋め込んだ目の見えないラット)は間違えた回数が有意に少なかった。横軸は訓練回数。(C)2つの餌に到達するまでの時間。盲目+センサー群は正常群に匹敵する早さで餌にたどりついた(東京大学の発表資料より)

 東京大学の池谷裕二教授らの研究グループは、地磁気チップをラットの脳内に埋め込むことによって、「磁気感覚」を作り出すことに成功した。

 生物は、目や耳などの感覚器官を用いて、光や音などの様々な環境情報を電気シグナルに変換して知覚している。しかし、例えばヒトは地磁気・紫外線・超音波などを感知することはできない。今回の研究では、磁気センサーを目の見えないラットに埋め込み、センサーから得られた磁気情報を活用することができるかを検証した。

 ラットを北向きもしくは南向きの場所に放ち、東側のアームに進入すると、甘いペレットを食べることができる状況に置いた。そして、磁気センサーは、ラットが北を向いたら右側の一次視覚皮質を、南を向いたら左側の一次視覚皮質を、それぞれ刺激するように設定した。その結果、ラットは曲がるべき方角をすみやかに学習し、迷路をスタートする直前だけセンサーが動作するよう設定した時にもラットは迷路の課題を解くことができることが分かった。

 さらに、3つのスタートボックスのうちどれか一つからスタートさせ、2つのエサを食べるまでにかかった時間と、間違えてエサのないアームに進入してしまった回数を数えたところ、センサーを埋め込んだ目の見えないラットは、目の見えるラットと同じようにエサの位置を正確に把握できるようになることが明らかになった。

 さらに、迷路試験を終えた翌日にセンサーの電源を切ってセンサーを埋め込んだ目の見えないラットに同じ迷路の課題を解かたところ、はじめは成績が大きく低下しましたが、その日のうちに学習し、課題を解けるようになった。迷路の空間を事前に地磁気感覚を通じて経験しておくと、地磁気感覚が失われた状態でも迷路を解けることになる。これは、目の見えないラットの脳内に「認知地図」が形成されたためであると示唆される。

 これらの結果から、地磁気感覚を通じて、通常の視覚の場合と同様に、「地理感覚(土地勘)」が得られることがわかる。つまり、脳は、失われた感覚(視覚)を、未経験の新奇感覚(地磁気感覚)で、すみやかに代替できることが示された。

 今回の発見は、脳の潜在能力の高さを裏付けるとともに、視覚障がいなどの感覚欠損の治療に向けた新しいアプローチを拓くことが期待される。身近な応用例としては、視覚障がい者が街歩きをするために用いる白杖に、方位磁針センサーを設置するなどの応用化が考えられる。

 なお、この内容は「Current Biology」に掲載された。

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