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【コラム 山口利昭】改正景品表示法のグレーゾーン-不正競争防止法との境界線
【11月26日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
昨日(19日)、課徴金制度を盛り込んだ景品表示法改正法案が(衆議院解散直前に)なんとか成立しました。この法案の施行はこれから1年半以内、ということだそうで、今後も様々な話題を提供してくれるものと思います。
さて、あまり世間的に話題になっていないようですが、外食事業の木曽路さんの食材偽装事件について、10月末に(松阪牛の地元である)三重県の弁護士の方が不正競争防止法違反として、法人としての木曽路さん、そして事件のあった店舗の料理長2名について大阪府警に刑事告発をされたことが報じられていました。木曽路さんといえば、10月15日に消費者庁より景表法違反として行政処分を受けたばかりです。おそらくこの刑事告発をされた弁護士の方は、「食材偽装により、松坂牛のブランドが大きく毀損されたのだから景表法違反など甘い!不正競争防止法違反で厳罰を与えるべきだ!」といった気持から告発をされたものと推察いたします。
刑事告発によって木曽路さんの第三者委員会の活動はどうなってしまうのだろう?・・・といった興味もありますが、実はこの告発は、景表法改正法案との関係で大きな問題提起を含んでいると考えます。たしかにメニュー偽装事件とはいえ、産地偽装に該当するものだから刑事罰が適当ではないのか?不正競争防止法2条1項13号に基づく「誤認惹起行為」に該当するものであり、同法21条2項、同22条1項によって刑事罰に値するのではないか?本件は「誤表示」ではなく悪質な行為であるから刑事罰が適当、といった考えもありうると思います。
これまでは、この景表法違反行為と不正競争防止法違反の境界線は極めて曖昧であり、明確な判断基準はないものとされてきました。なんといっても経産省が管轄としている不正競争防止法における「誤認惹起行為」には、行政処分が規定されていません(差止めや損害賠償等による民事救済と法人処罰を含む刑事罰のみ)。したがって、刑事罰適用のためには罪刑法定主義が前提となりますので、その構成要件の解釈はかなり厳格です。まず刑法の視点からは、おそらく料理の偽装というのは「商品、役務の偽装」には含まれないのではないか、といった保守的な解釈指針の運用により、摘発の枠外にあったと思います。また、刑事訴訟法の視点からは、刑事立証の容易性という配慮から、不正競争防止法上の「誤認惹起行為」を認定するためには、業者→業者といった取引を「不正競争行為」として、被害業者からの明確な証言を立件の証拠方法としています。
ところで、景表法に課徴金制度が導入されるとなりますと、消費者庁は措置命令前の調査、そして課徴金処分前のヒアリング等に基づき、偽装事件に関する事実認定のための立証活動をかなり積むことになるのではないでしょうか。とりわけ課徴金処分に企業側の主観的要件が必要とされたことから、悪質性を立証するスキルが高まることが予想されます。また、一方の企業としても、課徴金処分について、行政処分であるがゆえに、(粉飾事件と同様)争わずに早めに事件を終結させることが増えるのではないでしょうか。そうなりますと、景表法と不正競争防止法のクロスする部分において、課徴金処分の前例が積み上げられることによって不正競争防止法の要件解釈が緩くなってくることが考えられます。また、昨年の「東大阪ライスネットワーク事件」において、大阪府警、大阪地検は、不正競争防止法違反として、業者→消費者の取引を「不正競争行為」と捉えて、米穀販売会社の経営者を逮捕、起訴することにも踏み切っています。こうなりますと、ますます景表法と不正競争防止法の選択適用、さらには重畳適用の余地は広まってくることが予想されます。
消費者庁としては、経産省や検察庁、各都道府県の行政機関との連携により、消費者に対する商品表示上の偽装について課徴金処分とするのか、それとも(不正競争防止法により)刑事罰を適用すべきか、そのあたりの選択の幅が広がり、まさに(課徴金処分と刑事告発の選択において)粉飾事件やインサイダー事件をさばく証券取引等監視委員会と同様の権限を持つ可能性もあるのではないかと(もちろん、そうなるためには人材の育成も不可欠となりますが)。いずれにしましても、景表法に課徴金制度が認められる・・・ということは、景表法の枠内だけで考えていても企業のリスク管理としては不十分です。他の法令との関連性にも配慮しなければならないと考えています。まず第1弾は不正競争防止法との関係でしたが、また近いうちに第2弾について考えてみたいと思います。【了】
山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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