徴兵制「全くの誤解」と自民党 本当に誤解か

2014年7月5日 14:49

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記事提供元:エコノミックニュース

自民党はFAXニュース173号で「安全保障法制整備のための閣議決定」と題した集団的自衛権行使容認に関する閣議決定の意図を説明している。

自民党はFAXニュース173号で「安全保障法制整備のための閣議決定」と題した集団的自衛権行使容認に関する閣議決定の意図を説明している。[写真拡大]

 自民党はFAXニュース173号で「安全保障法制整備のための閣議決定」と題した集団的自衛権行使容認に関する閣議決定の意図を説明している。その中のQ&Aに「徴兵制が採用され、若者が戦地へと送られるのですか」との問いかけを設けた。

 その問いには「全くの誤解であり、明らかな間違い」と回答している。

 自民党は「現行憲法18条で『何人も(中略)その意に反する苦役に服させられない』と定められており『徴兵制が出来ない根拠』になっている」と説明する。

 「自民党が平成24年に発表した新憲法草案においてもこの点は継承されている。また、軍隊は高度な専門性が求められており、ほとんどの国が現在の自衛隊と同じように『志願制』に移行しつつある。憲法上も安全保障政策上も徴兵制が採用されるようなことは全くありません」と断言し、現行憲法の下では「安全保障政策上も徴兵制が採用されることは全くない」と完全否定する。

 しかし、その可能性は全くないと言えるのか。徴兵制は苦役を強いることになるので憲法18条により「できない」という根拠としているが、解釈そのものが「通説・政府見解」であるためだ。

 徴兵制が「苦役」との現行の解釈が、徴兵制は「国民の義務」との解釈に変わる可能性は全くないのか。

 安倍内閣は日本を取り巻く安全保障環境が大きく変わったとして、戦後、自民党政権の下でも歴代政府が一貫して堅持してきた「集団的自衛権は有するが現行憲法下では行使は認められていない」とする憲法解釈を、政府・与党のみの合意で変更し、閣議決定し、自衛隊法など安全保障法制の改正準備に入った。

 その政府が徴兵制導入のために憲法18条の解釈を変更することはないといいきれるだろうか。

 憲法12条は「国民に保障する自由及び権利は国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」とし「国民はこれを濫用してはならない。『常に公共の福祉のために』これを利用する責任を負う」と規定している。

 憲法13条は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については『公共の福祉に反しない限り』、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」。

 基本的人権は尊重されなければならないが、公共の福祉が優先するため、「国民の生命・安全を守るため」に個人の基本的人権に一定の制限を図ることには「合理的根拠」があり、法律で「国家の存立、国民の生命・安全、憲法が保障する基本的人権を維持するため、憲法12条が規定している『自由及び権利は国民の不断の努力によって保持しなければならない』」などを根拠に、国民の義務として徴兵制を導き出すことは可能と言える。

 今回の憲法9条の解釈変更により、自衛隊の行動範囲が広がり、武器を持って戦うリスクが高くなった。安倍総理は「抑止力が高まり、戦争に巻き込まれる危険性が低くなる」というが、武器を持って応じるとなれば、死傷する危険性が高くなるとみるのが自然だろう。

 共産党の機関紙(赤旗)で現職の自衛隊員が「日本は海外派遣をしているが殺された自衛隊員はいない。これは憲法9条のおかげ。日本は侵略しない国だと思われているから攻撃を受けにくい。憲法9条が実は自衛隊員の命を守る最強の盾になっている」と語っている。

 新しい解釈の下で安保法制が見直され、自衛隊員が現実に武器をとる危険が高まれば、あるいは現実に死傷者が出る事態が生じれば、自衛隊への「志願制」による隊員維持は難しくなるだろう。

 自衛隊員は自衛隊入隊時に「日本の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、憲法、法令を遵守し、政治的活動に関与せず、ことに臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、国民の負託にこたえる」と宣誓している。

 身をもって責務を完遂する宣誓なので、危険が高まるとすれば、余程の愛国心や日本人としての誇り、自衛隊員としての使命感がなければ、志願してこないだろう。

 現在の戦争は数で戦うものでもない。頭脳戦だし、素人を集めても役に立たない。なんで徴兵制なのだ。との声があがりそうだが、少なくとも、現況規模の自衛隊員は今後も必要なのだろう。

 新しい安保法制の下での活動に際し、今の自衛隊員に宣誓をやり直してもらうことにしても、全員が宣誓してくれるだろうか。今でも陸海空の自衛隊員の充足率は90.4%、92.3%、90.7%と1割近く不足している(平成25年版防衛白書、昨年3月31日現在数値)。

 志願制の維持が難しくなれば、現行憲法下でも、安全保障環境の著しい変化を理由に、憲法18条の政府解釈を変更し、国家存立が確保できてこそ基本的人権の確保が図れるなどとして、自衛隊員確保のため志願制から国民の義務(任期付き徴兵制)への変更も全く空想の世界ではないような危険を感じる。

 民主党の枝野幸男憲法総合調査会長は「多くの民主主義国では政治的に徴兵制を採用することが困難であるし、現代の安全保障は高い技術・技能、それを支える高度な訓練が必要であるため、徴兵制で人数だけ集めても機能し難い側面がある。米国もこれら要因の総合的帰結として志願兵制になっているが、 一方で、他国のために命を懸けるのか、という疑問が世界の警察として積極行動することへの障害の一つとなっている」とも指摘している。

 そして「それでも米国は、日本とは比較にならないほどの格差社会と言われており、大量に存在する、仕事を選べない若者の一部が供給源となることで、志願兵制の下でも他国のために命をかけざるを得ない若者によって(いわゆる「経済的徴兵制」)世界の警察としての役割を一定程度果たしてきたとの指摘もある」と。

 枝野憲法調査会長は「日本国憲法の下で徴兵制は憲法違反ですし、憲法を変えて徴兵制にするなどということは民意との関係でもリアリティーはないと思っている」と指摘するが、その一方で「それでも集団的自衛権の行使容認によって生じるであろう 他国のために命を懸ける危険が高いほど、高い志を持った自衛官を集めることへの困難が大きくなるのではないか」と筆者と同じく、志願制で隊員を集めることの難しさが出てくるだろうとの見方を示す。

 極論だが、今回の閣議決定までの政府のやり方をみると憲法改正をし、徴兵制を法制することは難しい。第9条を改正すること以上に難しい。とすれば、志願制で維持できない状況が継続する事態が将来生じ、安倍政権のような政権が再び誕生すれば、憲法解釈の変更で徴兵制を可能にし、法案を成立させることになるのだろう。そんな想像が容易にできるようになった今回の事態こそ最も憂慮される。

 今回の閣議決定で見直される安保法制のそれぞれの中身について、国会で熟議することを願う。日米防衛協力ガイドラインの見直しにすべての照準が合わされる「期限付き議論」にならないことを、特に、巨大与党の自民党と政府にお願いする。ひとつひとつの法案についての国会議論を通して、国民への説明責任を果たすことを切に願う。(編集担当:森高龍二)

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