【アナリスト水田雅展の株式・為替相場展望】消費増税の影響は想定内の水準として安心感に繋がる可能性

2014年5月4日 18:07

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

■焦点はトヨタ自動車の15年3月期見通し

 来週(5月7日~9日)の株式・為替相場は、4連休明けのため3日間の取引となり、大勢としてはレンジ相場の継続を想定する。ただし、前週の重要イベントを大きな波乱なく通過したことに加えて、消費増税後の4月の反動減などのマイナス影響がほぼ想定内の水準であることが確認されたため、ある程度の安心感に繋がりそうだ。

 法人税の実効税率引き下げやTPP(環太平洋経済連携協定)交渉の実質合意の報道を好感する可能性もあるだろう。主要企業の決算発表では8日発表予定のトヨタ自動車<7203>の15年3月期見通しが焦点となる。一方でウクライナ情勢の緊迫化に注意が必要となりそうだ。

 前週(4月28日~5月2日)の日本株は方向感に乏しい展開だった。主要株価指数の週間騰落率を見ると、日経平均株価は28円25銭(0.20%)上昇して週末2日の終値は1万4457円51銭、TOPIXは12.49ポイント(1.07%)上昇して週末2日の終値は1182.48だった。

 重要イベントが相次いだが概ね想定どおりの結果となり、事前の期待感や事後の失望感と称する先物での仕掛け的な動きも見られず、特に大きな波乱なく通過した。ゴールデン・ウイークの谷間で総じて様子見ムードの強い展開だった。ソニー<6758>が5月1日に発表した14年3月期連結業績3回目の減額修正の影響も限定的だった。為替も引き続き小動きで、ドル・円相場は概ね1ドル=102円台前半のレンジで膠着感の強い展開だった。

 4月30日の日銀金融政策決定会合では、市場の大方の予想どおり金融政策の現状維持を決定して追加金融緩和を見送った。また同日発表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、物価見通しについて15年度を1月時点見通しの1.9%を維持し、新たに公表した16年度を2.1%として目標に掲げる物価上昇率2%を上回る見通しを示した。これに伴って追加金融緩和に対する期待感が後退する形となったが、金融政策決定会合前の期待感、会合後の失望感と称する先物の仕掛け的な動きは見られなかった。

 日銀の追加金融緩和に関しては消費増税の影響を見極めるという点で、さらに政府が6月に取りまとめる予定の成長戦略に連動してという点で、7月以降という見方が優勢だが、15年10月消費税率引き上げ第2弾(8%から10%へ)の実施判断に向けて、7~9月期GDPのプラス成長を確実なものにするためとして、追加金融緩和に対する期待感も根強い。

 4月29日~30日の米FOMC(連邦公開市場委員会)では大方の市場予想どおり、資産買い入れ規模を100億ドル減らしてテーパリング(量的緩和縮小)継続を決定した。今回はイエレン米FRB(連邦準備制度理事会)議長の記者会見がなかったこともあり、FOMC声明に対する市場の反応は限定的だった。

 4月30日発表の米1~3月期GDP速報値は年率換算で前期比0.1%成長にとどまり市場予想を下回った。しかし寒波の影響を受けた1~3月期に対して4~6月期は成長率が上向くとの見方が優勢となり、GDP速報値に対する市場の反応も限定的だった。

 5月2日の米4月雇用統計では失業率が6.3%となり、3月の6.7%から0.4ポイント低下して08年9月以来の水準に改善した。また非農業部門雇用者増加数は前月比28.8万人増加で、12年1月以来の大幅な増加となった。3月改定値の同20.3万人増加(同19.2万人増加から1.1万人上方修正)を大幅に上回り、市場予想の21万人増加も大幅に上回った。

 米4月雇用統計の結果を受けて、直後に米10年債利回りが2.69%台まで上昇し、外国為替市場ではドル・円相場が1ドル=103円00銭台までドル高・円安方向に傾く場面があった。しかし短期筋のポジション調整が一巡すると、親ロシア派との衝突激化などウクライナ情勢の緊迫化も警戒されて、米10年債利回りが一転して2.57%台まで急低下し、ドル・円相場も一転して1ドル=102円10銭台までドル安・円高方向に傾いた。米国株も総じて上値の重い展開となった。

 来週の日本株は4連休明けで7日~9日の3日間の取引となり、日本市場が休場となる5日と6日の海外市場の動向にも影響されるが、大勢としては日経平均株価1万4000円~1万5000円近辺のレンジ相場が継続しそうだ。

 ただし、前週の重要イベントを大きな波乱なく通過したことに加えて、4月の主要百貨店・小売各社の売上動向などで、総じて消費増税後の反動減がほぼ想定内の水準であり、個人消費に対するマイナス影響が週を追って縮小傾向であることも確認されたため、個別銘柄によってややバラツキはあるものの、市場全体としてはある程度の安心感に繋がる可能性があるだろう。

 実質的にピークを迎える3月期国内主要企業の決算発表では、8日発表予定のトヨタ自動車の15年3月期見通しが、市場のムードを大きく変えるかが最大の焦点となるだろう。ドル・円相場が膠着感を強めていることもあり、15年3月期は為替変動影響(円安メリット)を見込まず、利益は横ばいまたは減益見通しとする可能性があり、市場がどのように反応するかが注目される。

 すでに決算を発表した銘柄に対する反応を見ると、15年3月期見通しが市場予想を上回る増益見通しだった場合には素直に買いで反応するが、減益見通しだった場合、あるいは市場予想を下回った場合には、発表直後に売り叩かれる光景がお決まりのパターンとなっている。ただし5月2日のソニーの株価のように売り一巡後に切り返す動きも目立っている。株式市場では消費増税の影響や円安進行一服の影響に対する警戒感をかなり織り込んでいるため、短期筋の売り仕掛けの影響も一時的・限定的のようだ。

 ウクライナ情勢に関しては米ロの外交的駆け引きが続く。そして5月25日予定のウクライナ大統領選に向けて、ウクライナ政権側と親ロシア派の衝突が激化するなど緊迫度を増し、それに伴ってリスクオフの動きを強める可能性もありそうだ。最悪の事態に向かう可能性は小さいが、市場の反応には注意が必要だろう。

 中国の景気減速やデフォルト(債務不履行)に対する警戒感は、もはやサプライズとはならないだろう。来週は5日の中国4月製造業PMI改定値(HSBC)、7日の中国4月サービス部門PMI(HSBC)、8日の中国4月貿易統計、9日の中国4月PPI・CPIの結果次第では、売り仕掛けの材料とされやすいが、影響は一時的・限定的だろう。

 為替については、米4月雇用統計の強い結果を受けても米10年債利回りが結局は低下し、ドル・円相場も結局はドル安・円高方向に傾いた状況を考慮すると、概ね1ドル=102円台での膠着状態が続きそうだ。米FRBの緩和的な金融政策が長期化するとの見方が優勢になり、米10年債利回りがなかなか上昇しない現状だが、15年春~夏に向けて徐々にゼロ金利政策解除が視野に入るだけに、米10年債利回りが一段と低下する可能性も小さいだろう。

 ただしウクライナ情勢絡みで、一時的にリスクオフの動きを強める可能性に注意しておきたい。8日のECB(欧州中央銀行)理事会とドラギECB総裁の記者会見に関しては、追加利下げ見送りとの見方が優勢であり、ユーロ・円相場も小動きだろう。

 株式市場での物色動向としては、14年3月期業績修正や15年3月期見通しなど、業績修正・決算発表に反応して個別物色の動きが継続する。好業績を材料視して発表直後に買い上げても、一転して資金の逃げ足が速くなる銘柄も多いため注意が必要となる。逆に市場予想を下回ったとして発表直後に売り叩かれても、切り返しの動きを速めている銘柄も多いため投資好機とも言えそうだ。

 その他の注目スケジュールとしては、5月5日の米4月ISM非製造業景気指数、OECD経済見通し、6日の豪中銀理事会、米3月貿易収支、7日~8日の英中銀金融政策委員会、8日のインドネシア中銀金融政策決定会合、9日の日本3月景気動向指数などがあるだろう。

 その後は12日の日本4月景気ウォッチャー調査、13日の中国4月鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資、米4月小売売上高、15日の日本4月消費動向調査、ユーロ圏第1四半期GDP速報値、20日~21日の日銀金融政策決定会合などが予定されている。(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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